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オーバーローン物件が含まれる離婚時の財産分与についての裁判例

2026年3月23日

弁護士 松田直弘

離婚時における財産分与の対象に、オーバーローン状態の住宅用不動産が含まれている場合の考え方を示した裁判例(東京高等裁判所判決令和6年8月21日判決)を紹介します。

事案の概要

妻の不貞行為を主因として婚姻関係が破綻した夫婦の離婚訴訟において、財産状況として、以下のものがありました。

  • 財産の状況(別居時・基準日):夫名義の夫婦共有財産として、自宅マンション(評価額:約493万円)と退職金(約996万円)など、合計約1570万円の積極財産がありました。
  • 負債の状況: 一方で、自宅マンションに係る住宅ローン債務が約1663万円あり、負債総額は約1763万円に上りました。
  • 純資産額: 夫婦共有財産の総評価額を合算(通算)すると、約193万円の債務超過(マイナス)の状態でした。

争点

事案の概要のとおり、夫婦共有財産を通算するとマイナスになる事から、全ての財産が夫名義だったとしても妻に分与すべきものは無いとの結論になります。

一方、オーバーローン状態の自宅と住宅ローンを財産分与の対象から「除外」した上で、残る積極財産(退職金など)の2分の1を分与すべき、となれば、妻はこれらの財産分与を得られる事になります。

 

そこで、全部通算すべきなのか、自宅と住宅ローンは除外して算定すべきなのか、が争点となりました。

原則

 財産分与は、婚姻期間中に協力して得たすべての財産(積極財産と消極財産の両方)を総合考慮して算定すべきものです。したがって、不動産の評価額を超える住宅ローンがある場合、それらを他の積極財産と通算して分与額を定めるのが相当とされます。

 

公平性の観点:

 妻の主張(負債を除外して積極財産だけ分ける)を認めると、不動産の所有者が債務を一人で抱える一方で、他の財産の分与も強いられることになり、公平に反すると指摘されています。

例外

原則的な「通算(積極財産と消極財産を合算して清算する方法)」を維持すると当事者間の衡平(公平性)を害すると認められる場合には、民法768条3項の「一切の事情」として、特段の考慮がなされるべきであるとされています。

 

具体的にどのような場合に「特段の事情」があり得ると考えられているか

不動産を取得できない側の不利益:

    • その不動産から退去を余儀なくされること。
    • 原則的な通算方法(マイナス分を他のプラス財産から差し引く)をとることによって、分与されるべき財産がゼロになる、あるいは離婚後の生活が困難になるほど少額になること。

不動産を取得する側の利益(蓋然性):

    • 所有名義人として、その不動産の使用収益を継続できること
    • 離婚後の収入や取得した財産によって住宅ローンを返済することで、最終的に負担(抵当権)のない不動産所有権を取得できる、あるいは処分によって一定の利益を得る可能性が高い(蓋然性が認められる)こと

裁判所の視点

裁判所は、住宅ローンには「離婚成立後の支払分が、その不動産を単独取得する側にとって、取得のための対価的性質(代金のようなもの)を持つ側面もある」と指摘しています。

そのため、一方が住まいを失い財産も受け取れない一方で、もう一方が将来的に価値ある不動産を独占できるという結果が、離婚後の当事者間の財産上の衡平を著しく害すると判断される場合には、原則とは異なる算定方法(オーバーローン物件を計算から除外するなど)を検討する合理性が認められるとしています。

本件での判断

本件において、東京高裁は以下の理由から、原則通り「通算」を行い、妻への財産分与を認めない判断を下しました。

別居の経緯:

妻は自ら自宅を出て別居しており、自宅の使用利益を自ら放棄したといえる状況にありました。

 

婚姻破綻の責任:

 婚姻関係が破綻に至った責任の過半は、不貞行為に及んだ妻側にあると認められました。

 

財産の性質: 分与対象となる主な積極財産は「退職金」であり、支給の見通しが不確定であるという性質も考慮されました。

 

結論:

 これらの事情を総合すると、原則通り他の財産と通算して分与額を定めることが「当事者間の衡平を害する」とは認められないと結論付けられました。