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業務中の暴行事件に労災を認めた裁判例の紹介

2026年4月6日

弁護士 松田直弘

業務に従事中に、同僚に殴打されけがをした事について、労災が認められた裁判例(名古屋地裁判決令和6年9月11日判決)を紹介します。

事案の概要

本件は、ゼリー製造工場で期間従業員として働いていた原告(フィリピン国籍の男性)が、業務に従事中、同僚のCから顔面を殴打され、「右眼角膜裂傷及び虹彩脱出」の傷害(以下「本件傷害」)を負った事案です。

 

原告は、この傷害が業務に起因するものであるとして、労災保険法に基づき、療養補償給付および休業補償給付を請求しました。

しかし、労働基準監督署長が、業務と本件傷害との間に因果関係(業務起因性)が認められないとして不支給処分としたため、原告がその処分の取消しを求めて提訴しました。

争点

原告が負った本件傷害に「業務起因性」が認められるか

結論

本件傷害には業務起因性が認められると判断しました。

行政通知の存在

「他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて」

業務と他人の故意に基づく暴行による負傷との間の相当因果関係の判断について,「業務に従事している場合又は通勤途上である場合において被った負傷であって,他人の故意に基づく暴行によるものについては,当該故意が私的怨恨に基づくもの,自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き,業務に起因する又は通勤によるものと推定することとする。 」とされています。

判断の概要

業務起因性の判断基準:

 業務中に他人の故意による暴行を受けて負傷した場合、それが私的怨恨や自招行為、その他明らかに業務に起因しないものを除き、基本的には業務に内在する危険が現実化したものとして、業務起因性が認められるという枠組みを採用しました。

暴行のきっかけ:

 証拠によれば、本件暴行は、同僚Cが原告に対しパレット作業からトレイ作業に交代するよう指示し、原告がこれに応じなかったことを契機として発生した口論に引き続いて行われたものでした。したがって、同僚間の業務上のやり取りが原因であると認められました。

被告側の主張(私的怨恨・自招行為)の否定:

 被告側は「業務に関係のない私的な侮辱が原因の口論であり、原告が先に手を出した自招行為である」と主張し、加害者Cもそれに沿う供述をしていました。しかし、裁判所は、仲裁に入った別の同僚Aの証言には高い信用性がある一方、Cの供述は不自然で信用できないと判断しました。

小括:

 本件暴行は私的怨恨や自招行為に基づくものとはいえず、業務上のやり取りから生じた「業務に内在する危険が現実化したもの」であると認定されました。