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事情変更により養育費の増額が認められた裁判例

2026年4月13日

弁護士 松田直弘

協議離婚時に養育費について合意していたものの、その後事情変更があったとして、養育費の増額を求める調停を起こし、最終的に審判で増額が認められた裁判例(横浜家裁小田原支部審判令和5年8月10日、東京高裁判決令和5年8月10日判決)を紹介します。

事案の概要

本件は、平成29年に協議離婚した申立人(母)と相手方(父)の間で、未成年者の養育費を月額2万円とする私的合意(本件合意)がされていました。

その後、申立人が相手方に対し、養育費が支払われなくなったことや事情の変化を理由に、養育費の増額を求めて調停を申し立て、不成立を経て審判手続へ移行しました。

原審は、本件合意に債務名義(強制執行が可能な文書)がないことから、合意の変更ではなく新規の算定と同様に扱うのが相当として、月額3万2000円への増額を認めました。

これに対し、相手方が不服を申し立て、即時抗告(東京高裁)に至りました。

争点

1.事情変更の有無と合意の変更可否:

離婚時の合意内容を、後の事情変化によって変更できるか,。

2.適切な養育費の算定額:

「改定標準算定方式」に基づき、双方の現在の収入や扶養家族(他の子)を考慮した妥当な金額はいくらか。

3.相手方の借入れの考慮:

相手方が離婚後に負った借金の返済を、養育費算定において考慮すべきか,。

4.変更の始期:

増額された養育費をいつから支払うべきか(調停申立時か、それとも事情変更が完了した時点か)。

判断の概要

1.事情変更の有無と合意の変更可否

事情変更があれば、合意の変更は可能であるとして、裁判所は、以下のよう事情変更の存在を認定しました。

1.相手方(父)による借入金の完済

離婚の合意をした当時、相手方(父)には消費者金融から約100万円の借入れがあり、当初の養育費の額(2万円)はこの借金の存在を考慮して定められていました。

しかし、相手方(父)はこの借入金を令和3年末頃までに完済したことが認められました。

これにより、以前よりも養育費を支払う余力(経済的余裕)が生じたと判断されています。

2.第3子の誕生(相手方(父)の新たな扶養義務)

相手方(父)は離婚後、別の女性と再婚し、令和2年に女児(第3子)をもうけました。

その後再度の離婚を経て、現在は相手方が第3子の養育費(支払える時に支払う約束)を負担している状況にあります。

算定にあたっては、この第3子も相手方が扶養すべき対象として考慮されました。

3.申立人(母)の就労状況と収入の変化

離婚当時、申立人(母)は無職で収入がありませんでした。

その後、就労を開始しましたが、調停申立当時には病気(うつ病)のため休職しており、月額約13万円の傷病手当金を受給するようになっていました。

裁判所は、この傷病手当金を給与収入に換算した上で、申立人の現在の基礎収入を算出しました。

4.抗告人(父)の稼働状況と収入の変化

相手方の働き方と収入が以下のように大きく変化しました。

離婚時:

自営業(A)として稼働(手取り月25万円程度と推測)。

調停申立時:

別の仕事(B)に従事し、月収10万〜12万円程度に減少。

令和4年12月以降:

 会社員として稼働し、月額32万円の給与収入を得るようになった。

2.適切な養育費の算定額

算定には、社会実態を反映した「改定標準算定方式」が用いられました。

相手方の現在の給与収入(年額384万円)や、申立人の傷病手当金(給与換算して基礎収入を算出)を基に計算され、月額3万1000円が相当と判断されました。

 

3.相手方の借入れの考慮:

自分の都合で事後的に作った借金を理由に、子供の養育費を減らすことは認められないと判断しました。

離婚前の借金(本件借入れ)について

 離婚合意時に存在していた約100万円の借金については、元夫婦の生活費などに充てられた可能性があるため、双方が返済の負担を分かち合うという観点から、当時の養育費の額(月額2万円)を定める際に考慮したことは相当であったと認めています。

離婚後の新たな借金について

離婚後に相手方が独自に負った借金については、申立人との共同生活とは無関係なものです。そのため、申立人がその返済負担を分担すべき理由はなく、未成年者の養育費の額を決める際にこれを減額要因として考慮することは相当ではないと結論づけられました,。