YouTubeに投稿された動画に対して行われた不当な削除通知について損害賠償が認められた事例
2026年9月17日
弁護士 松田直弘
動画による解説はこちらから
事案の概要
本件は、動画共有サービス「YouTube」において、主に編み物の解説動画を投稿し広告収益を得ていた投稿者(原告・被控訴人、以下「X」)が、同じく編み物動画を投稿する競合の投稿者(被告・控訴人、以下「Y1」)およびその共同経営者(同「Y2」)によって動画を不当に削除されたとして、共同不法行為に基づき損害賠償を求めた事案です。
経緯:
Xが「トリニティスティッチ」および「メランジ編み」で作品を編む2本の動画(以下「X動画」)を投稿したところ、Y1が、これらは自身が投稿した動画の著作権を侵害していると主張し、YouTubeに対して著作権侵害通知を提出しました。これにより、X動画は事前通知なく削除されました。
削除の継続と復元:
X動画は令和2年2月6日から令和2年8月29日までの206日間にわたり削除された状態が続きました。しかし、YouTubeはY1の侵害通知に法的要件が欠けていると判断し、追加情報の請求に対してもY1から提出がなかったため、著作権侵害警告を取り下げて動画を復元しました。Xは、この不当な削除通知により精神的苦痛および広告収益喪失の不利益を被ったとして、Yらに対して訴訟を提起しました。
争点
本件の主な争点は、以下の4点です。
- Y1の著作権侵害通知による不法行為責任の成否(法律上保護される利益の侵害があるか、侵害通知にあたり注意義務違反・過失があるか)
- Y2の共同不法行為責任の有無
- 損害の発生およびその額(動画削除に伴う精神的苦痛による慰謝料、広告収益減少に伴う経済的損害)
- 過失相殺(損害軽減義務違反)の成否(Xが速やかに異議申し立てをしなかったことに過失が認められるか)
結論
第一審:
Y1・Y2の共同不法行為を認め、連帯して7万4,721円(慰謝料5万円、広告収益相当額1万7,929円、弁護士費用6,792円)の支払いを命じました。
控訴審:
Yらの控訴を棄却し、Xの附帯控訴を一部容認。Xの精神的苦痛をより重く認め、賠償額を連帯して26万1,514円(慰謝料20万円、広告収益相当額1万7,929円、弁護士費用4万3,585円)へと大幅に増額しました。
争点1:Y1の著作権侵害通知による不法行為責任の成否(法律上保護される利益の侵害があるか、侵害通知にあたり注意義務違反・過失があるか)
1.法律上保護される利益の侵害(どのような権利が侵害されたか)
投稿者(X)には以下の2つの観点から「法律上保護される利益」が存在すると判断されました。
人格的利益(表現の自由)の侵害:
YouTubeなどの動画共有サービスは、誰もが簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることができる場です。したがって、作成した動画を投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものであり、「著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないこと」について法律上保護される利益を有します。
営業上の利益(財産的利益)の侵害:
収益化されたチャンネルにおいては、動画投稿によって広告収益を得ているため、正当な理由なく動画を削除する行為は投稿者の営業活動を妨害する行為にほかなりません。したがって、この側面からも法的保護に値する利益が認められます。
2.侵害通知を行う者に課される「注意義務」
YouTubeの著作権侵害通知システム(米国DMCAに基づく「ノーティス・アンド・テイクダウン制度」)の特性を踏まえ、通知者に課される注意義務を定義しました。
YouTubeが実体的判断を行わないことの裏返し:
YouTubeは、適式な著作権侵害通知があった場合、その真偽を実体的に判断することなく、原則として即座に対象動画を削除します。このように強力かつ即時的な効果(動画非公開、3回累積でのアカウント永久停止・全動画削除)を持つ制度であるため、通知を出す側には極めて重い社会的・法的責任が伴います。
求められる注意義務の内容:
「YouTubeヘルプ」の規約においても、通知の前提として「通知者自身が著作権者であること」「使用が法律上許可されていないと確信していること」「通知内容が正確であること」の確認が求められています。
裁判所はこれを踏まえ、「著作権侵害通知をする者は、事前に著作権侵害の有無について、客観的証拠や事実関係を十分に調査・検討した上でこれを行う注意義務を負う」と結論づけました。
この義務を尽くさずに漫然と根拠のない侵害通知を行い、結果的に他人の正当な動画を削除させた場合、その態様によっては不法行為を構成します。
3.Y1の過失(および制度の「濫用」)の具体的認定
裁判所は、Y1が上記の注意義務を怠った「過失」があるだけでなく、「著作権侵害通知制度を意図的に濫用した」とまで極めて厳しく認定しました。その根拠となった具体的事実は以下の通りです。
① 客観的な法的根拠の完全な欠如
編み目に著作権はない:
編み物の編み目(スティッチ)は、毛糸で作品を作るための「技法のアイデア」または「最小構成単位」にすぎず、思想や感情を創作的に表現したものではないため、それ自体に著作物性は認められません。
タイムスタンプすら指定しない漫然とした削除要求:
X動画(25分超)のうち、仮にY1が類似していると主張する部分があったとしてもそれはごく一部(約3分40秒)にすぎないにもかかわらず、Y1は該当箇所を特定することなく、X動画の「動画全体」を対象として漫然と削除通知を送っていました。
② Y1の主観的過失と「独自の歪んだ見解」
Y1は、動画の著作物性の有無の判断には困難が伴うことを以前からコメント欄の記載等により認識していました。
それにもかかわらず、「先行して動画を投稿した以上、自分に権利が生じている」という著作権法を逸脱した独自の歪んだ見解に基づき、法的成り立ちを全く検討しないまま侵害通知を強行しました。
③ 競合を排除するための意図的な「不当な圧力」
裁判所が「濫用」とまで踏み込んだ最大の要因は、Y1の不誠実な事後対応と、競合チャンネルへの組織的な嫌がらせ行為(市場排除の動機)にあります。
Xからの問い合わせの無視:
Xから「どの動画のどの部分が侵害に当たるのか」と真摯な問い合わせを受けたのに対し、具体的な回答を拒み、専らXを困惑・畏怖させる対応に終始しました。
他者への一斉通知と恫喝:
Y1はXのみならず、同日に他の複数の編み物チャンネル(LやNなど)に対しても一斉に同様の不当な侵害通知を送り、動画を削除させていました。
強迫的な示談の強要:
Y1に加担する共同経営者Y2が、他の投稿者に対して「一度痛い目を見ないといけない」「詐欺で警察に行ける」などと脅迫的なメッセージを送り、裁判ではなく「示談契約」を結ばせて活動を断念させるなどの不当な圧力をかけていました。
④ 専門家への相談という抗弁の虚偽性
Y1側は「弁理士や弁護士に事前に相談した上で侵害通知を行った」と主張しました。
しかし裁判所は、
・それを裏付ける客観的証拠がないこと
・仮に事前に相談していたとしても、専門家であれば「編み方自体は著作権で保護されない」という原則を説明していたはずであり、Y1の言動はそれに完全に反していること
を指摘し、「真摯な相談がされたとは到底考えられず、自らの不当な主張を無理に通そうとしたもの」として過失を免れる理由にはならないと一蹴しました。
争点2:共同経営者(Y2)の共同不法行為責任
Y2は、Y1が複数の投稿者に対して侵害通知を行っている事実を認識しつつ、自ら「代表取締役」を名乗って他の投稿者に強迫的なメッセージを送るなど、Y1の行動に積極的に助力・加担していたため、共同不法行為者としての連帯責任を負うと判断されました。
争点3:損害の発生およびその額
広告収益(1万7,929円):
新規動画は投稿直後に最も視聴者が集中し、その後逓減する傾向にあること、また夏場には編み物動画の視聴数が下がる季節変動があることを考慮して、算出されました。
高裁での慰謝料増額(5万円 → 20万円):
動画の削除期間が約半年と長期に及んだことやテロップ編集などの多大な労力が割かれていたことに加え、削除後にY1が自身のチャンネルで「2度あることは3度ある、3度目は命取りです」などとコメントし、3回目の通知によるアカウント永久停止・全動画削除の恐怖を煽ってXを精神的に畏怖・困惑させ続けたこと、判決後も誹謗中傷を続けるなど事後的にも不誠実な態度をとった点を重くみて、慰謝料額が大幅に引き上げられました。
争点4:過失相殺(損害軽減義務違反)の成否
Yらは「Xが迅速にYouTubeへ異議申し立てをしなかったのは過失である」と主張しました。
しかし、異議申し立てを行うと「投稿者の本名や住所などの個人情報が侵害通知者(Y1)に自動的に転送されるシステム」であったこと、Y1側が不誠実な対応をしていたことから、Xが代理人弁護士を通じて慎重に対応を検討したことはやむを得ないものであり、X側の過失相殺は一切認められませんでした。