タレントが元所属事務所に、肖像権、パブリシティ権の侵害、および不正競争防止法違反を訴えた事例
2026年9月14日
弁護士 松田直弘
専属契約終了後も元所属事務所がウェブサイトに氏名や写真を掲載し続けたとして、タレントが肖像権、パブリシティ権の侵害、および不正競争防止法違反を訴えた事例(東京地裁令和5年12月11日判決)を紹介します。
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事案の概要
1.当事者の関係:
原告はタレントやモデル等の芸能活動を行ってきた人物であり、被告はタレントの育成やマネジメントを行う芸能プロダクション(事務所)です。両者は平成30年12月に専属契約(以下「本件契約」)を締結しました。
2.トラブルの端緒と別件訴訟:
原告は令和2年8月に本件契約を解除する旨の通知を送付しました。その後、契約解除の有効性を巡り別件訴訟が提起され、最終的に令和5年4月18日に「契約解除は有効」とする判決が確定しました。
3.被告の行為:
被告は、原告から解除通知を受けた後も、自社のホームページ上に原告の氏名、肖像写真、プロフィール等の掲載(以下「本件掲載」)を継続していました。
ただし、別件訴訟の判決確定(令和5年4月18日)と同日に、被告はこれらの掲載を自社ホームページから削除しました。
4.本件の訴え:
原告は、契約解除後もホームページ上に自身の氏名や肖像写真を掲載し続けた被告の行為に対し、以下の請求を行いました。
主位的請求:
肖像権およびパブリシティ権の侵害(不法行為)に基づき、損害賠償金975万7000円の支払と、氏名・写真等の削除を請求。
予備的請求:
不正競争防止法2条1項1号の「不正競争」に該当するとして、同法4条に基づき損害賠償金382万8000円の支払を請求。 (なお、削除請求については、被告が訴訟確定日に自主的に削除したため、実質的には損害賠償請求が主な請求となりました。)
争点
本件の主な争点は、以下の4点です。
- パブリシティ権侵害の有無(争点1)
- 肖像権侵害の有無(争点2)
- 不正競争防止法2条1項1号該当性(「商品等表示」該当性)(争点3)
- 損害発生の有無およびその額(争点4)
結論
裁判所は、被告によるホームページへの原告の氏名・肖像写真の掲載行為について、パブリシティ権侵害、肖像権侵害、不正競争防止法違反のいずれの違法性も認めませんでした。
争点1:パブリシティ権侵害の有無
定期昇給を行うことが労働契約の内容となっているか
1.判断基準:
肖像等を無断で使用する行為がパブリシティ権を侵害するのは、最高裁の「ピンク・レディー判決」の基準に基づき、
①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
③肖像等を商品等の広告として使用する
など、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする」といえる場合に限られます。
2.本件へのあてはめ:
被告は、所属タレントを紹介する自社ホームページにおいて、原告が所属している事実を示し、人物情報を補足するために本件写真等を使用したにすぎません。
したがって、これらの写真は商品等として使用されたものではなく、商品の差別化や広告として使用されたものでもないと認められました。
3.結論:
専ら顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権侵害は成立しません。
争点2:肖像権侵害の有無
1.判断基準:
肖像を無断で公表等する行為が違法となる基準について、本判決は違法となる類型を明確にするため、以下の3つの類型に整理しました。
被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上「受忍すべき限度」を超える場合に限り、違法(肖像権侵害)となります。
- 私的領域において撮影し、または撮影された情報を公表する場合で、その情報が公共の利害に関する事項ではないとき。
- 公的領域での公表で、その情報が社会通念上の受忍限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき。
- 公的領域での公表で、公表によって社会通念上の受忍限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき。
2.本件へのあてはめ:
本件の写真は、所属タレント紹介のために白色無地の背景で正面から美しく撮影されたものです。私的領域で撮影されたものではなく、原告を侮辱するものでもなく、日常生活の平穏を害するものでもありません。
3.契約解除後の掲載について:
原告は「自分の意思に反して掲載され続けた」ことが受忍限度を超えると主張しましたが、当時は契約解除の有効性が別件訴訟で争われていた最中であり、その訴訟確定と同日に被告が写真を削除したという経緯を考慮すれば、その間に掲載を続けた行為が受忍限度を超える侮辱等に当たるとは言えません。
4.結論:
肖像権侵害は成立しません。
争点3:不正競争防止法2条1項1号該当性
1.判断基準:
同法にいう「商品等表示」とは、商品の出所や営業の主体を表示するものを指します。
2.本件へのあてはめ:
原告の氏名や肖像は人物識別情報であり、本来的に商品や営業の出所表示機能を持つものではありません。
また、原告は芸能プロダクションに所属する一タレントにすぎず、原告自身が自らプロダクション業務等の営業主体(出所)となっていた事実も認められません。
原告の氏名や肖像が、人物識別情報を超えて「原告自身の営業等を表示する二次的意味(出所表示機能)」を有し、それが周知であるとは認められません。
3.結論:
原告の氏名・肖像は「商品等表示」に該当せず、不正競争防止法上の違法行為も認められませんでした。