こども用の椅子のデザインが著作権法上保護されるかどうかが争われた事例
2026年10月29日
弁護士 松田直弘
子供用の椅子をめぐり、原告らが自社製品の形態が不正競争防止法における商品等表示に該当し、あるいは著作権を侵害していると主張し、被告による類似製品の製造販売等の差止めや損害賠償などを求めた事例(最高裁判決令和8年4月24日、(控訴審)知財高裁判決令和6年9月25日、(第一審)東京地裁判決令和5年9月28日)を紹介します。
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事案の概要
- 当事者:
- 原告(控訴人・上告人): オプスヴィック社(著作権者)、ストッケ社(著作権の独占的利用権者・輸入販売元)。
- 被告(被控訴人・被上告人): 株式会社Noz(競合製品「Choice Kids」「Choice Baby」の製造・販売元)。
- 対象製品: 原告製品=家具デザイナーのピーター・オプスヴィックがデザインした著名な子供用椅子「TRIPP TRAPP」。被告製品=「Choice Kids」(被告製品1)および「Choice Baby」(被告製品2)。
- 請求の概要: 原告らは、被告による被告各製品の製造販売等の行為が以下に該当すると主張し、被告各製品の製造販売等の差し止め、廃棄、損害賠償等を求めました。
1.不正競争防止法違反(原告製品の形態が周知・著名な商品等表示であり、混同を生じさせる)
2.著作権法違反(原告製品の著作権および独占的利用権の侵害)
3.一般不法行為(民法709条:公序良俗・自由競争の範囲を逸脱した営業上の利益侵害)
争点
本訴訟における主な争点は以下のとおりです。
- 不正競争防止法上の争点:
- 原告製品の商品形態(全体、または斜めの側木と脚木からなる一部の特徴)が「商品等表示」として保護されるか(特別顕著性・周知性の有無)。
- 被告各製品の形態が原告製品と類似し、需要者に誤認混同を生じさせるか。
- 著作権法上の争点:
- 量産される実用品(応用美術)であるトリップ トラップに「著作物性」が認められるか(量産実用品における著作物性の判断基準)。
- 被告各製品が原告製品を複製または翻案したものといえるか(表現上の本質的特徴の直接感得性)。
- 一般不法行為上の争点:
- 不競法や著作権法違反とならない場合であっても、自由競争の範囲を逸脱する不法行為が成立するか。
結論
原告らの請求はいずれも棄却されました
争点1: 不正競争防止法に関する判断
商品等表示性:
原告製品は、左右一対の斜めの側木と脚木による略L字型構造(特徴①・②)に加え、側木の内側の溝に座面板・足置板を直接挿入して固定する構造(特徴③)および一直線のデザインが不可分に結合した「本件顕著な特徴」において周知な商品等表示性が認められました。
非類似性:
一方で、被告製品は側木の内側の溝固定(特徴③)を有さず、ネジや支持部材・固定部材を用いて固定する構造であり、側木上部の折れ曲がりや各部の曲線要素などを含んでいます。そのため、原告製品の洗練された直線的・シンプルな特徴を備えておらず、形態が類似しない(混同のおそれがない)と判断されました。
争点2: 著作権法に関する判断
1.最高裁が示した著作物性の有無についての判断基準
- 量産されて日常生活の中で実用に供される物品(量産実用品)について、登録等の手続なしに発生し死後70年・著作者人格権を伴う著作権法の保護を広く認めると、設定登録を要し存続期間25年とする意匠法の存在意義を損ない、自由な利用を阻害して産業の発達を妨げるおそれがあると説示しました。
- その上で、量産実用品の形状等が「美術の著作物」として保護されるのは、「観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができる場合」に限られるという規範を確立しました。
- (補足意見では、知財高裁が用いた「美的鑑賞」という言葉は、裁判所が芸術性や美感を判断するかのような誤解を生みやすいため、最高裁の法廷意見では「機能由来の構成と観念上別個に創作的表現として把握できるか」という客観的な要件で整理されたことが説明されています。)
2.判断の理由(当てはめ)
- 原告らが主張するトリップ トラップの特徴(約66度の略L字型脚部、座面板と足置板の平行配置など)は、子供用椅子としての機能に由来する構成(脚・座面板・足置板の配置)が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情に過ぎません。
- 本件椅子の形状等は「機能に由来する構成としてしか把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することはできない」ため、著作物性に当たらないと判断し、原告らの上告を退けました。
争点2: 一般不法行為に関する判断
不競法や著作権法で保護されない利益が別途侵害されたとはいえず、被告の販売行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものとは認められないとして否定されました。
