学校現場におけるカスハラを考える
2026年4月25日
弁護士 松田直弘
先日、カスタマーハラスメントについて、企業が取り得る対抗策について検討しました。今回は、学校現場におけるカスハラについて、考えてみたいと思います。
東京都が令和7年12月に【学校と家庭・地域とのより良好な関係づくりに係るガイドライン(素案)】を公表していますので、その内容にも触れていきます。
動画による解説
学校現場で発生しているカスタマーハラスメント(カスハラ)の具体例
大きく分けると、家庭(保護者等)や地域住民からの「合理性を欠く不当・過剰な要求」や「社会通念上相当な範囲を超える対応の強要」があり、具体的には以下のようなものが挙げられます。
1.家庭(保護者等)からのカスハラ例
教育活動への過剰な干渉・要求:
授業の内容、宿題の量、座席の配置など、学校の教育活動の細部に対して過剰に干渉したり要求したりする行為。
不当な評価の変更や人事への介入:
児童・生徒の評定(成績)や内申点の変更に関する不当な要求や、担任の変更、異動、辞任を求める要求。また、公平性を著しく欠く特別扱いの要求。
過度な謝罪や金銭の要求:
教職員に対して土下座をするよう要求したり、過度な謝罪を求めたりする行為。さらに、教職員個人を対象として損害賠償や慰謝料を要求すること。
執拗・威圧的・拘束的な言動:
声を荒らげて高圧的に自らの要求を主張し執拗に責め立てる、学校の業務に支障が生じるほどの長時間の居座りや長電話をする、何度も電話をして要求を繰り返す、何度も家庭訪問を要求する、多項目に及ぶ質問に対して書面での回答を要求するといった行為。
許可のない撮影:
学校内の様子を許可なく撮影する行為。
2.地域住民からのカスハラ例
学校の管理外の事案への対応要求:
児童・生徒の登下校時の行動や、公園での遊び方など、本来学校の管理外である事柄について苦情を言ったり対応を求めたりする行為。
音に対する過剰な苦情・活動中止要求:
休み時間や学校行事、部活動などの音に対して過剰な苦情を申し立てたり、活動の中止を要求したりすること。
個人情報の要求・施設の不当利用:
児童・生徒や教職員の個人情報を教えるよう要求する行為や、学校の敷地、施設、備品等の過剰な貸出を要求したり無断で使用したりする行為。
裁判例に現れた学校現場のカスハラ
「甲府地裁 平成30年11月13日判決」の事案の背景にも、保護者による理不尽なカスハラ行為が存在します。
この事案では、児童の自宅の犬に噛まれた被害者である教諭に対し、保護者(父親や祖父)が学校に乗り込み「ヤクザの教師がいるのか」などと非難して一方的に謝罪を要求しました。
結果として教諭は90分もの間責め立てられ、床に膝を着いて頭を下げる(土下座)での謝罪を強いられており、これは保護者による「威圧的な言動」や「過度な謝罪・土下座の要求」といった典型的なカスハラ行為に該当します。
この事件については、被害者である教諭に対して理不尽な土下座等の謝罪を強要した事案です。教諭はこれによりうつ病を発症しました。
教諭は被害者であり謝罪する理由がないにもかかわらず、校長が理不尽な抗議に対して事実関係を冷静に判断せず、その場を穏便に済ませるために職務上の優越性を背景に謝罪を強いた行為は、社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱しているとされました。
教諭の自尊心を傷つけ多大な精神的苦痛を与えたとして、カスハラへの不適切な事後対応による不法行為(パワハラ)が認められました。
学校現場のカスハラへの対応方針
学校現場におけるカスタマーハラスメント(保護者や地域からの社会通念を超える不当な要求や言動)に対しては、教職員個人に問題を抱え込ませず、「チーム学校」としてルールに基づき組織的かつ段階的に対応することが提案されています。
東京都教育委員会のガイドラインによれば、具体的に以下のような対応手順や原則が推奨されています。
1.対応時の基本原則
複数人での対応の徹底:
学級担任1人に任せるのではなく、学年主任などと役割分担をし、必ず2人以上の教職員で対応します。電話対応の場合もサポート役をつけます。
面会時間・日時の事前設定:
授業等の学校業務に支障を出さないよう、事前の約束なしの長時間の面談は避けます。原則として平日の放課後に設定し、時間は30分(状況に応じて最長60分)を目安に区切ります。
記録の徹底(録音の活用):
客観的な事実関係を残すため、事前に相手に案内した上で、電話の録音機能やボイスレコーダーを活用してお互いの発言を正確に記録します。
2.段階的な面談・交渉フロー
事案が長引く、または不当な要求が繰り返される場合は、段階的に対応のレベルを引き上げます。
初期対応(面談1〜2回目):
まずは複数人で相手の主張を傾聴し、事実関係(5W1H)を確認して要望内容を特定します。ただし、社会通念に照らして妥当ではない要求に対しては即答せず、上司と相談するために一旦持ち帰ります。
管理職の介入(面談3回目):
状況が改善しない場合、副校長などの管理職が中心となって対応を引き継ぎます。学校として「対応できること」と「対応できないこと」を論理的・明確に伝えます。この段階から、必要に応じて教育相談センターや弁護士への相談を開始します。
専門家の同席・代理対応(面談4〜5回目以降):
さらに慎重な対応が必要な場合、心理士や弁護士等の専門家に同席を求めます。状況によっては、弁護士が学校の代理人として単独で対応したり、医師や弁護士等で構成される第三者的機関への相談を打診したりして、法的な観点等から事態の収拾を図ります。
3.対応の終了と緊急時の措置
対応の打ち切り:
丁寧に説明したにもかかわらず、社会通念を超える言動が繰り返され、教育・勤務環境が害されると組織として判断した場合は、行為の中止を複数回要請した上で、「対応の終了」を明確に宣告します。
警察や警備会社との連携:
退去を要求しても相手が速やかに応じない場合は、あらかじめ連携している警備会社に要請したり、警察へ通報したりします。暴行や脅迫など、明らかな犯罪行為や危険・緊急性が伴う場合は、ただちに警察へ110番通報します。
4.教職員のメンタルヘルスケア(事後対応)
理不尽なカスハラを受けた教職員は多大なストレスを抱えるため、管理職は一人で抱え込ませないようサポート体制を整え、必要に応じて相談室の案内や専門医療機関の受診を促すなど、心のケアに努めることが重要とされています。また、SNS等でのいわれのない誹謗中傷に対しては、組織として削除要請を行うなど毅然と対応します。