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産休・育休後の復職時の配置転換について、男女雇用機会均等法、育児介護休業法に違反するとして損害賠償が認められた事例

2026年6月13日

弁護士 松田直弘

クレジットカード会社の女性従業員が育児休業からの復職後に受けた配置転換や人事評価をめぐって、第一審では職務等級に変更がないことなどを理由に会社側の措置が適法とされたものの、控訴審では実質的な業務の質的低下が不利益な取り扱いに当たり、将来のキャリア形成を損なう違法な措置であると判断された事例((第一審)東京地裁判決令和元年11月13日、(控訴審)東京高裁判決令和5年4月27日)を紹介します。

動画による解説はこちら

事案の概要

当事者:

原告(控訴人・X)は、クレジットカード会社であるY社の個人営業部において、37人の部下を擁するチームリーダー(営業管理職・バンド35)として勤務していました。

 

経緯:

Xは平成26年12月頃に妊娠し、平成27年7月に出産、その後平成28年7月まで産前産後休業および育児休業等を取得しました。

 

会社の措置:

Y社は、Xの休業中に組織変更によりXが担当していたチームを消滅させました(措置1-1)。

そして、Xが復職すると、新設した部門のアカウントマネージャー(職務等級は以前と同じバンド35)に配置しましたが、部下を1人も付けず、新規販路の開拓や電話営業に従事させました(措置1-2)

その後の組織変更でもXをチームリーダーには戻さず(措置2)、

復職後最初の人事評価でリーダーシップ項目を最低評価の「3」としました(措置3)

また、復職直後には別フロアの小部屋での執務を指示しました(措置4)。

 

訴えの内容:

Xは、これらの措置が「男女雇用機会均等法9条3項(マタハラ)」や「育児・介護休業法10条(育休ハラ)」、公序良俗に違反し、人事権の濫用にあたるとして、損害賠償等を求めて提訴しました。

争点

本件の主な争点は以下の通りです。

  • Y社が行った各措置(措置1-1、1-2、2、3、4)が、均等法9条3項や育介法10条で禁止されている「不利益な取扱い」に該当するかどうか。
  • これらの措置が公序良俗(民法90条)に違反し、または人事権の濫用として違法・無効であるか
  • 違法性が認められる場合、Xの損害の有無およびその額。

結論

1.第一審(東京地裁):

職務等級(ジョブバンド)の低下や基本給の減額がなかったことなどを理由に、不利益な取扱いには当たらないとして原告の請求を棄却(会社側の勝訴)しました。

 

2.控訴審(東京高裁):

第一審の判決を一部変更し、原告の請求を一部認容(原告の逆転勝訴)し、会社側に合計220万円(慰謝料200万円+弁護士費用20万円)および遅延損害金の支払いを命じました。

措置1-1:休業中のチーム消滅

1.具体的な内容
 X(原告)が育児休業を取得していた平成281月、Y社が組織変更を実施し、Xがリーダーを務めていた「東京のベニューセールスチーム」を統廃合し、アカウントセールス部門を新設したことに伴って、Xのチームを消滅させた措置です。

2.地裁の判断(適法)

 チームは消滅したものの、Xの職務等級(ジョブバンド35)は維持されており、復職時には同等級に相当する役職に就くことが予定されていたため、チームリーダーの役職を解かれたり所属が不明な状態に置かれたとはいえず、降格としての「不利益な取扱い」には当たらないと判断されました。

3.高裁の判断(適法)

 アメリカの提携先企業との契約終了を見据えた組織再編という業務上の必要性に基づくものであり、Xの妊娠や育児休業等を理由としたものとは認められないとされました。この時点ではXに対する具体的な人事措置は行われていないため、不利益な取扱いなどの違法性はないと判断されました。

措置1-2:復職時の「部下なし」での配置

1.具体的な内容

 平成28年8月にXが復職した際、Y社はXを新設部門の「アカウントマネージャー」という役職(等級は以前と同じバンド35)に配置しましたが、部下を1人も付けず、新規販路の開拓や電話営業(リストを用いたテレアポ)を担当させた措置です。妊娠前のXは、37人もの部下を統率するチームリーダーでした。

2.地裁の判断(適法)

 職務等級の低下を伴わない「役職の変更」に過ぎず、コミッション(歩合給)の支給率等も高く設定されていたため直ちに給与が減少したとは認められず、受ける不利益は大きくないとして、「不利益な取扱い」には当たらないと判断されました。

3.高裁の判断(違法)

 妊娠前に37人の部下を統率していたXに一人も部下を付けず電話営業等をさせたことは、業務の質が著しく低下し、Xが積み重ねてきたキャリア形成を損なうものであると認定されました。また、上司が「休んでいてブランクが長い」「休暇が多い」と発言していたことから、これが育児休業等を理由とする措置であると認定され、Xの同意や業務上の必要性も認められないため、**均等法・育介法が禁止する「不利益な取扱い」に該当し、人事権の濫用等にあたる(違法)**と判断されました。

措置2:新設チームでの配置

1.具体的な内容

 平成29年1月の組織変更で、Xが所属する部門と別のチームを併合した新チームが作られ、別の社員(C)がチームリーダーに就任しました。Xは引き続き部下を持たないまま、このCの下に配置され、業務報告を行う体制にされた措置です。

2.地裁の判断(適法)

 別の社員(C)をリーダーにしたのは、復職後のXの勤務態度やCの実績などを総合的に考慮した結果であり、育児休業等の取得を理由とした措置とは認められないため、「不利益な取扱い」に該当するか検討するまでもなく適法とされました。

3.高裁の判断(違法)

 別の社員(C)をチームリーダーにしたこと自体は会社の人事権の範囲内とされましたが、「引き続きXに部下を付けることなく電話営業等を行わせた限度において」、措置1-2と同様に均等法等に反する「不利益な取扱い」に該当し、違法であると判断されました。

措置3:最低の人事評価

1.具体的な内容

 平成29年3月に行われたXの復職後最初の人事評価において、Y社が「リーダーシップ」という評価項目において、3段階評価の最低評価である「3」を付けた措置です。

2. 地裁の判断(適法)

 Xが自主的・積極的に業務を行う姿勢に欠けたため、他の社員との相対評価で最低評価にしたのであり、育児休業等を取得したことが理由ではないとして、「不利益な取扱い」には当たらないとされました。

3.高裁の判断(違法)

 リーダーシップ項目が最低評価とされたのは、復職したXに部下を付けずに新規開拓や電話営業に専従させた結果(違法とされた措置1-2等の結果)であるといわざるを得ないと指摘され、この人事評価も「不利益な取扱い」に該当し違法であると判断されました。

措置4:配席の指示(別フロアの小部屋での執務)

1.具体的な内容

 Xが復職した直後に共用スペースの席を指示し、その後、平成28年9月から12月までの間、他のチームとは別フロアにある小部屋(副社長用のVPルーム)で執務するように指示した措置です。Xは「不当に人間関係から引き離された」と主張しました。

2.地裁の判断(適法)

 オフィスの拡張工事に伴う座席の都合や、Xの所属部門が電話を多く使用する業務であることを考慮して別フロアの部屋を割り当てたものであり、就業環境を害する事情はうかがえないとして、「不利益な取扱い」には当たらないと判断されました。

3.高裁の判断(適法)

 地裁の事実認定を引用した上で、この配席の指示は妊娠や育児休業等を理由とする「不利益な取扱い」には該当せず、人事権の濫用等にも当たらない(適法)と判断されました。

 

損害賠償責任が発生する法的根拠

高裁は、会社が復職したX(原告)に一人の部下も付けずに新規販路開拓や電話営業をさせたこと(措置1.-2,措置2)、および人事評価で最低評価を付けたこと(措置3)は、均等法93項および育介法10条で禁止される「不利益な取扱い」に該当するだけでなく、人事権を濫用するものであり、公序良俗にも反すると判断しました。

その結果、会社は「妊娠、出産、育児休業等を理由とする不利益な取扱いをしてはならない義務」に違反したとして、不法行為に基づく損害賠償責任、および雇用契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を負うと結論付けられました。

各損害についての判断内容

Xは主に「逸失利益(給与の減額分)」「治療費等」「慰謝料」を請求していましたが、裁判所は以下のように判断し、慰謝料と弁護士費用のみを認めました。

1.逸失利益(コミッション・インセンティブ等の減収分):認められず

 Xは、違法な配置転換等がなければ本来のチームリーダーとして高額な歩合給(コミッションやインセンティブ)を得られたはずだと主張しました。しかし裁判所は、仮に違法な取扱いがなかったとしても、Xがどの程度のコミッション等を得ることができたかは明らかではないとして、減収分を損害として認めることはしませんでした。

 

2.治療費・交通費等:認められず

 Xは、会社の措置等によって精神的苦痛を負い「心因反応」と診断されたとして治療費等を請求しました。しかし裁判所は、この疾患が会社の違法な措置や人事評価が原因であると認めるだけの的確な証拠はないとして、これらの損害を認めませんでした。

 

3.慰謝料(精神的苦痛に対する賠償):200万円認定

 裁判所は、Xが妊娠前に37人の部下を統率するチームリーダーとして業績を上げ昇進を重ねていたにもかかわらず、復職後は一人の部下も付けられずに電話営業中心の業務をさせられ、さらに最低の人事評価を受けたという事実を重く見ました。これにより、Xは「少なからぬ精神的苦痛を被り、将来の会社内におけるキャリア形成に対する期待感を害された」と認定され、その精神的苦痛に対する慰謝料として200万円の賠償が認められました。

 

4.弁護士費用:20万円認定 

認められた慰謝料200万円の1割に相当する20万円が、会社が負担すべき弁護士費用として認められました。

このように、経済的な実害(逸失利益)の証明は困難として退けられたものの、これまで積み上げてきた実績や将来のキャリア形成への期待を不当に奪われたことによる「精神的苦痛」が慰謝料という形で評価され、損害賠償が認められるに至りました。

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