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コミュニケーション能力や協調性の不足等を理由とした解雇を考える

2026年6月18日

弁護士 松田直弘

コミュニケーション能力や協調性の不足等を理由とした解雇における注意点と、これを行ったゴルフ競技大会等を運営する法人による従業員の解雇が違法・無効であるとされた事例(福岡地裁判決令和6年4月24日判決)を紹介します。

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事案の概要

本件は、九州地区内のゴルフ競技大会の運営等を行う被告(権利能力なき社団)の事務局に勤務していた原告が、被告からコミュニケーション能力や協調性の不足等を理由に解雇(本件解雇)された事案です。

原告は、本件解雇は無効であると主張し、従業員としての地位確認及び解雇日以降の賃金の支払いを求めました。

さらに、被告から支払われていた「出張日当」が未払残業代に充当されるかどうかが争いとなり、原告は適正な残業代が支払われていないとして、未払残業代及び付加金等の支払いも求めました。

争点

本件の主たる争点は、以下の通りです。

  • 出張日当が未払残業代に充当されるか
  • 本件解雇が無効か

結論

  • 本件解雇は無効と判断され、原告が労働契約上の権利を有する地位にあることが確認されました。
  • 解雇日以降の賃金の支払いと、未払残業代(71万7495円等)の支払いも認められました。

出張日当が未払残業代に充当されるかについて

裁判所は、被告の規則上、出張日当は残業時間の有無や長短にかかわらず一定金額が支払われるものと定められていることや、役職者には残業手当が支払われないにもかかわらず出張日当は支給されることから、出張日当が残業代の趣旨で支払われていたとは考え難い(対価性を有しない)と判断しました。
また、出張日当が固定残業代の趣旨であることを被告から原告に説明し、原告がそれに同意していた事実も認められませんでした(明確区分性を有しない)。
これらの理由から、出張日当は形式的にも実質的にも固定残業代には該当せず、未払残業代には充当されないと結論づけました。

本件解雇が無効かについて

被告は、解雇の理由として就業規則の2つの事由を主張しましたが、裁判所はいずれも該当しないと判断しました。

1.「技能低劣で業務の遂行に必要な能力を欠く」との主張について

被告は、原告の相互協力意識の欠落やコミュニケーション能力の低さを理由に挙げました。これに対し、裁判所は、以下の具体的な事実関係を挙げてこれを退けました。

前提として、裁判所は、原告が大会時に役員等へ挨拶をしなかったり、出張時の旅費精算について自分勝手な申出をしたりするなど、周囲との協調性や上司・関係者に対する礼儀や配慮に欠ける面があったこと自体は事実として認定しています。

1.担当業務は問題なく遂行していた 

原告は、自らの守備範囲と考える業務については特段の問題なく遂行しており、具体的には被告のインスタグラムの更新なども滞りなく行っていました。

 

2.上司からも事務処理能力を評価されていた 

原告のコミュニケーション能力の低さを問題視し、再三注意を与えていたとされる事務局長(A局長)自身も、原告の事務処理能力についてはプラスの評価をしていました。

 

3.指導に対して反省・改善の意向を示していた 

原告は、事務局長から令和4年6月22日及び同年7月1日に受けた指導に対し、同月6日には反省ないし改善の意向を示すメールを送信していました。

裁判所は、原告の言動によって繰り返し不快な思いをしていた事務局長が「原告に十分な改善の姿勢があるとは捉えなかった」という事情は一定程度理解できるとしました。しかし、上記の事実関係に照らせば、客観的に見て原告が被告の業務を行うための技能が低劣であり、業務の遂行に必要な能力を欠いていたとまでは評価できないと結論付け、被告の主張を採用しませんでした。

2.「業務の都合上やむを得ないとき」との主張について

被告は、原告が一度退職の意思を示した後に翻意し、事務作業に混乱を生じさせたことを理由に挙げました。

しかし裁判所は、原告は正式に退職届を書面で提出しておらず、待遇への不満から退職や就労意欲の減退を仄めかしていたにすぎず、明示的な退職意思を示していたとはいえないとしました。

さらに、被告は解雇後に原告の後任者を雇用しておらず、深刻な混乱が生じたかは定かでないとして、この解雇事由にも該当しないと判断しました。

コミュニケーション能力や協調性の不足を理由として解雇する場合の注意点

従業員のコミュニケーション能力や協調性の不足を理由として普通解雇を行う場合、慎重な対応が求められます。

労働契約は集団的労務提供を前提とする「協働」の場であるため、協調性の欠如により業務に支障が出ている場合は「労務提供の瑕疵(債務不履行)」として普通解雇事由に該当し得ます。

しかし、単に「協調性がない」という理由だけで直ちに解雇が認められるわけではなく、以下の点に注意して適切なプロセスを踏む必要があります。

  1. 業務遂行への「具体的な支障」の確認

単なる「性格の不一致」や、同僚から漠然とした嫌悪感を抱かれているといった程度では、解雇の理由にはなりません。

協調性不足を理由とする解雇が認められるためには、他の従業員との間に重大な紛争を生じさせたり、日常的に反抗的・攻撃的な態度をとったりして、現実に企業の業務運営に著しい支障をきたしている事実が必要です。

  1. 改善の機会の付与(配転と注意・指導)

解雇の有効性を判断する上で、企業側が労働者に「改善の機会」を十分に与えたかどうかが問われます。企業の規模や雇用形態によって求められる努力の程度は異なります。

1.配転(配置転換)の実施(大企業・ゼネラリストの場合)

 人間関係のトラブルは、職場環境や相手を変えることで解消する可能性があります。

そのため、配転が可能な規模の企業においては、解雇前に少なくとも2回程度の配転を行い、別の職場でも同様に協調性に問題があるかを確認することが求められます。

この際、トラブルを避けるために「別の職場で能力を発揮してほしい」などと理由を曖昧にするのではなく、「協調性不足により業務に支障が出ているため、次の職場では改善するよう努力しなさい」と、配転の理由が協調性不足にあることを本人に明確に伝えることが重要です。

 

2.事前の懲戒処分の実施(配転が困難な中小企業等の場合)

 配転の余地がない中小零細企業などの場合、配転なしでの解雇を検討せざるを得ませんが、その分、その都度厳しい注意や指導を行う必要があります。

解雇に踏み切る前に、必ず譴責(けんせき)や減給、出勤停止などの「懲戒処分」を少なくとも一度は実施し、本人に強い警告を与えておくことが不可欠です。

  1. 指導に対する本人の「反抗的姿勢」の確認

裁判例では、使用者が注意・指導を行った際の本人の反応が重視されます。注意を受けて素直に反省するのではなく、自己弁護に終始したり、上司の指示を無視して反発を強めたりするような態度(改善の意欲や見込みがないこと)が記録されていると、解雇の社会的相当性が認められやすくなります。

  1. 主観を排除する「客観的記録(メモ・陳述書)」の保存

「協調性がない」という評価は多分に主観的な要素が含まれるため、後日裁判等になった際、客観的な証拠がないと会社側が不利になります。

どのような問題言動があったか、いつ・誰が・どのような注意指導を行い、本人がどう反応したのかを、その都度詳細にメモや報告書、業務日報などの形で記録に残しておくことが極めて重要です。

また、トラブルの被害を受けた同僚や取引先から、具体的な被害内容や「一緒に仕事をするのが困難である」旨の陳述書をとっておくことも有効な手段です。

  1. 他の解雇事由との併用

協調性不足のみを単独の理由として解雇することは少なく、多くの場合、協調性の欠如に起因する「勤務態度不良」「業務命令違反」「職務遂行能力の不足(成績不良)」など、他の客観的な解雇事由と併せて主張されます。

就業規則上の複数の解雇事由に該当する事実を積み上げておくことが推奨されます。

  1. 精神疾患等の可能性への配慮

コミュニケーション能力の著しい欠如や問題行動の背景に、アスペルガー症候群などの発達障害や、うつ病等の精神疾患が隠れているケースもあります。

本人が自身の問題意識を当然には理解できない病的な要因が疑われる場合、会社は単純に「協調性がない」と切り捨てるのではなく、主治医や産業医の意見を聴取し、障害の特性に応じた適切な配置や配慮(就業上の措置など)を検討するプロセスが求められることがあります。

このような配慮を欠いた解雇は無効と判断されるリスクがある点にも注意が必要です。