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身元保証契約に基づく保証債務を身元保証ニ関スル法律5条に基づき免責した事例

2026年7月20日

弁護士 松田直弘

労働者が企業に与えた損害についての損害賠償において、労働者の親族が結んでいた身元保証契約に基づく請求について、責任が免除された事例((第一審)徳島地裁判決令和7年1月16日、(抗告審)高松高裁判決令和7年10月31日)を紹介します。

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事案の概要

本件は、青色半導体レーザー分野で大きな世界シェアを有する会社(原告/一審原告)の元従業員である被告Aが、退職する際に、会社の共有サーバーに保存されていた業務関連の電子ファイルを、自ら作成したプログラムを用いて故意に削除したという事案です。

 

原告は、ファイルの削除により損害を被ったとして、被告Aに対しては不法行為または債務不履行に基づく損害賠償を求め、さらに被告Aの身元保証人である被告B(妻)および被告C(母)に対しては、身元保証契約に基づく保証債務の履行として、連帯しての支払いを求めました。

 

第一審では約2581万円が請求されましたが、控訴審では原告が請求を拡張し、約3043万円の連帯支払いを求めています。

争点

本件の主な争点は以下の4点です。

  • 被告Aが故意により原告の業務に必要なファイルを削除したか(不法行為の成否、故意か過失か)

 

  • 被告Aの行為により原告に生じた損害の有無およびその額(ソフトウェアの再開発に係る人件費や代替品の購入費用など)

 

  • 過失相殺の成否(原告側に適切な開発環境を用意しなかった過失や、バックアップを取っていなかった過失があるか)

 

  • 身元保証法5条による減免(免責)の可否(控訴審における身元保証人らの主張)

結論

  • 第一審(徳島地裁)の結論:原告の請求を一部認容し、被告A、被告B、被告Cに対して、連帯して577万4212円の支払いを命じました。

 

  • 控訴審(高松高裁)の結論:第一審の判決を変更しました。被告Aに対する損害賠償額を1039万6632円に増額して支払いを命じた一方で、身元保証人である被告Bおよび被告Cに対する請求は棄却(免責)しました。

被告Aの不法行為(故意の認定)

被告らは「削除したソフトウェアは無償版であり商用利用できず、残しておくと莫大な損害賠償責任が発生するリスクがあったため削除したにすぎず、過失である」と主張しました。

しかし裁判所は、当該データは原告の財産であり、上司に相談することなく秘密裏に削除プログラムを作成・実行したことなどから、確定的故意による不法行為(および労働契約上のデータ保存義務違反)の成立を認めました。

損害額の算定

第一審では、消失した成果物を再構築するための人件費や、代替となる測定器の購入費用などを考慮し、577万4212円の損害が認定されました。

 

控訴審ではさらに、再利用が困難となったレンズを新たに購入するための費用(462万2420円)が損害として追加で認められ、合計1039万6632円の損害が認定されました。

過失相殺の否定

被告らは原告側の管理体制(開発環境やバックアップ)の不備を理由に過失相殺を求めました。

しかし、被告Aが故意に行った行為であることや、原告は40日間復元可能なバックアップ体制を採っていたものの、退職後に発覚したため復元期間を過ぎてしまったにすぎない等の事情から、原告に過失は認められませんでした。

身元保証契約に関する第一審および控訴審の判断

1.第一審の判断:連帯支払いを命令

第一審では、原告(会社)の主張が認められ、身元保証人である被告B(妻)および被告C(母)に対し、被告Aと連帯して577万4212円の損害賠償を支払うよう命じました

判断の理由:

被告Aが原告に入社した際(令和元年9月2日)、被告Bおよび被告Cは「被告Aの故意又は過失により原告が損害を被った場合は、退職後に発覚したときでも連帯して損害を賠償する」旨の身元保証契約(保証期間5年)を書面で締結していました。第一審は、この契約に基づき、身元保証人らの連帯責任を認めました。

2.控訴審:請求棄却(全面免責)

 

控訴審では、第一審の判決が覆り、身元保証人である被告Bおよび被告Cに対する請求は棄却されました。

判断の理由(身元保証法5条の適用):

控訴審は、本件の身元保証契約が「典型的な情誼による軽率な保証契約」であると評価し、以下の事情を総合的に考慮して、身元保証法5条に基づく免責を認めました。

    1. 保証人の認識不足: 被告Bおよび被告Cは、被告Aから「入社時に必要な書類」と依頼され、想定される保証責任の範囲やリスクを十分に検討しないまま、形式的な書類という程度の認識で署名押印していました。
    2. 会社側の手続きの不備(説明義務違反など): 契約には損害賠償の極度額(上限)の定めがなく、保証期間が5年と設定されていたにもかかわらず、原告(会社)は契約締結に際して、被告Bおよび被告Cに保証意思の確認を行いませんでした。また、想定し得る保証責任の範囲や内容について、現実の説明を一切していませんでした
    3. 会社の規模: 原告が青色半導体レーザー分野で大きな世界シェアを有する会社であることなどの事情も考慮されました。

結論

控訴審は、情誼による軽率な契約締結に至った主な原因が、会社側の意思確認や説明の欠如にあると判断し、身元保証人の責任を否定しました。