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居住用不動産の使用貸借契約において、信頼関係が破壊されたとして解除が認められた事例

2026年7月23日

弁護士 松田直弘

兄弟間の不動産の使用貸借(無償での貸借)において、信頼関係が破壊されたとして、使用貸借契約の解除、建物の明渡しが認められた事例((第一審)大阪地裁判決令和7年2月4日、(公訴審)大阪高裁判決令和7年6月4日)を紹介します。

動画による解説はこちらから

事案の概要

本件は、建物の所有者である原告(控訴人である兄)が、その建物及び土地(本件不動産である実家)を占有している被告(被控訴人である弟)に対し、所有権に基づく明渡しを求めた事案です。

 

被告は生活に困窮して平成28年末頃から実家に戻り無償で居住していましたが、早朝や深夜に大音量で音楽を流す、近隣住民や配達業者に大声で怒鳴る、道路に自転車を放置して交通を妨害するなど、警察が何度も出動・臨場するほどの迷惑行為を反復継続していました。

 

これを受けて、原告は被告に対して使用貸借契約の解除の意思表示を行い、建物の明渡しを求めて提訴しました。

争点

本件における主な争点は以下の通りです。

1.被告の占有権原の有無:

実家に戻ってきた被告と所有者である原告との間に、黙示の使用貸借契約が成立していたか。

 

2.使用貸借契約の終了の有無:

    • 被告が居住を始めてから、使用貸借契約における「使用収益に足りる期間」が経過したか。
    • 被告による近隣への迷惑行為等を理由として、原告と被告の間の信頼関係が破壊され、使用収益の目的達成が不可能になったか(契約の解除が有効か)

結論

  • 第一審(大阪地裁): 原告(兄)の請求を棄却(建物の明渡しを認めず)。
  • 控訴審(大阪高裁): 第一審判決を取り消し、原告(兄)の請求を認容(被告に対し、建物の明渡しを命じた)。

当事者間の信頼関係の破壊について

1.第一審の判断

第一審は、被告による近隣への迷惑行為(早朝・深夜の大音量の音楽や近隣住民への怒声など)の存在は認めつつも、基本的には「被告と近隣住民との間における不法行為の成否の問題」であると位置づけました。

その上で、現段階で貸主(原告)と借主(被告)の間の信頼関係が破壊されたとはいえないと判断しましたが、その理由として以下の事実関係を挙げています。

  • 事前の注意や不満の欠如:原告が本件訴訟を提起する前に、被告に対して不動産の使用方法について何らかの注意等を促した形跡がうかがわれないこと。また、原告は近隣住民からの苦情を受けて間もなく提訴に及んでおり、それ以前は被告の使用状況に大きな不満を有していたとは認められないこと。
  • 適切な日常管理: 本件不動産の日常的な管理は被告が行っており、その管理・使用方法自体に関して原告が不満を有していなかったこと。
  • 直接的・経済的損害の不在: 本件不動産は投資用の賃貸借物件ではなく両親から譲り受けた実家であり、被告の迷惑行為によって原告自身が賃料減収などの直接的な損害を被っているわけではないこと。

2.控訴審の判断

控訴審は第一審の判断を覆し、「居住用不動産の使用貸借において不法行為となるような迷惑行為を反復継続することは、契約の目的に反する用法であり、貸主との間の信頼関係を破壊する事情となる」との明確な基準を示しました。

控訴審が、両者の信頼関係が「修復不能な程度に破壊された」と認定するにあたって重視した具体的な事実関係は以下の通りです。

  • 迷惑行為の拠点化: 警察官からの注意があったにもかかわらず迷惑行為が反復継続されており、被告は本件不動産を単なる居住のためだけでなく、本件不動産の内外で迷惑行為を行うための「拠点」として使用していたこと。
  • 協議の拒絶: 原告が明渡しを求めて発送した弁護士からの内容証明郵便の受取りを被告が拒絶しており、原告との協議には応じないであろうという強い姿勢を示したこと。
  • SNSを用いた原告への不当な攻撃: 被告がSNS上で、原告の氏名や事業所の連絡先を掲載した上で「長男であることをいいことに」「部屋もある実家を、明け渡せと言ってぎしたね」などと投稿し、不特定多数に対して**「原告が合理的理由なく親族である被告を実家から追い出そうとしている」との印象を与えた**こと。
  • 原告に対する社会的批判のリスク: 被告が道路に自転車を放置したとして道路交通法違反で逮捕されたこと等を契機として、一連の迷惑行為がテレビやインターネット動画サイトで全国的に報道され、大阪府議会や知事の関心事にもなったこと。これにより、迷惑行為に対する批判の矛先が、行為者である被告のみならず、物件所有者である原告にまで及び得る状況に至ったこと。

結論

控訴審はこれらの事実に基づき、遅くとも控訴審で改めて解除の意思表示がされた日(令和7年3月29日)の時点で、両者の信頼関係はもはや修復不能な程度に破壊され、使用収益の目的達成が不可能になっていたと判断しました。