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株主への利益供与の禁止

2026年3月10日

弁護士 松田直弘

会社法120条は、株式会社が株主の権利行使に関して、特定の者に対して財産上の利益を供与することを禁止しており、利益供与が行われた場合、その利益を受けた者は、会社に対して受け取ったものを返還しなければなりません。

 

これに関連する裁判例(京都地方裁判所令和7年1月23日)を紹介します。

事案の概要

本件は、X新聞グループの持株会社である原告HD(X新聞ホールディングス)およびその子会社が、元代表取締役の親族であり大株主でもある被告に対し、会社が支払った報酬等の返還を求めた訴訟です。

 

被告は、昭和58年以降、発行済株式総数の25%以上の株式について株主権を行使できる立場にありました。原告らは、被告に対し「相談役報酬」を支払っていたほか、被告の私邸と同じ敷地内にある会社の施設(a⼭荘)の「管理⼈費⽤」を負担していました。原告らは、これらの支払いが「株主の権利の行使に関する利益供与」(会社法120条1項)にあたるとして、消滅時効にかからない範囲の報酬および費用(計4億円超)の返還を請求しました。

争点

本件の主な争点は以下の3点です。

①相談役報酬の支払いが利益供与に当たるか:

被告が株主権を行使しないことの対価として支払われたものか、また、業務内容に対して報酬額が著しく多額といえるか。

②a⼭荘の管理⼈費⽤の支払いが利益供与に当たるか:

会社の施設管理のためではなく、実質的に被告個人の日常生活を援助するために支出されたものか。

③被告が悪意の受益者に当たるか:

被告が、これらの支払いが不当な利益供与であることを認識していたか。

裁判所の判断の概要

裁判所は、原告らの請求をいずれも認め、被告に対して総額4億円を超える金員および遅延損害金の支払いを命じました。判断のポイントは以下の通りです。

・相談役報酬について: 

昭和60年に被告と当時の代表取締役の間で作成された「本件確約書」の内容や背景から、報酬の支払いは被告が「経営に口を出さない(株主権を行使しない)」ことの見返りとして行われたと認定されました。また、被告は具体的な業務にほとんど従事しておらず、報酬額が代表取締役を上回ることもあったことから、会社法120条2項により利益供与であると推定され、その推定を覆す事情もないと判断されました。

「本件確約書」の内容は、概ね次のようなものです。

X代表取締役会長被告(以下「甲」という)と同社代表取締役社長D(以下「乙」という)は、新聞社およびその関連企業グループの全役員の結束を図り、各社の経営の充実と発展を期すため、互いの信頼のもとに次のとおり確約する。

一 甲は、新聞社の約二七パーセントの株式を保有するA家を、社主Bとともに代表する立場から、新聞事業の公益性を深く認識して、節度あるオーナーとして新聞社における「資本と経営の分離」の理念を実現するよう努力し、乙が第二項の確約にそって誠実にその職責を全うすることを前提にして、社会通念上妥当と認められる期間、乙の新聞社代表取締役社長たるの地位を保証し、かつ、同役職退任後においても、乙の体面を保つにたりる処遇をするように配慮する。

二 乙は、新聞社および関連企業グループの経営、人事の全般にわたり、甲の意思を体して、その職責を果たし、新聞社の経営の充実と発展に寄与するとともに、乙自身はもとより新聞社及び関連企業グループの役員を指導して、新聞社定款に定める甲の地位、権限を支持、尊重して行動せしめ、A家のオーナーたる地位及び甲の地位、権限に対抗する新聞社内外の勢力ないし動きがあるときはこれらを抑制・排除するため全力を尽くさせるよう努力する。

・管理について:

a⼭荘は長年社用で利用されておらず、管理人は実質的に被告の門扉の開閉、郵便物の受領、雪かきといった被告の日常生活の世話を行っていました。そのため、会社が管理人を24時間体制で配置する必要性は乏しく、その費用は被告への利益供与に当たると認められました。

・悪意の受益者性:

被告は、報酬が本件合意(確約書)に基づいて支払われていたことや、自身の業務内容が報酬に見合うものではないことを認識していたとして、「悪意の受益者」であると結論付けられました。

コメント

会社法120条は、株式会社が株主等の権利の行使に関して財産上の利益を供与することを禁止する規定であり、もともとは総会屋対策のために設けられたとされています。同条3項は利益供与を受けた者に対する利益の返還請求について、同条4項は利益供与に関与した取締役等に対する利益相当額の支払請求を規定しています。

しかし、株主の権利の行使に関して利益を供与したことの証明は容易ではないことから、同条2項で、株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたとき(前段)又は有償でも株式会社等の受けた利益が財産上の利益に比して著しく少ないとき(後段)は、株式会社は株主の権利の行使に関し財産上の利益の供与をしたものと推定されています。

この推定を肯定した裁判例は、過去ほとんど無かったとされています。

逆に推定を否定した裁判例としては、

東京地判平27.5.13(控訴審東京高判平29.1.31)

京都地判平29.1.12

東京地判平29.1.20

が挙げられています。