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学校事故についての裁判例の紹介

2026年3月20日

弁護士 松田直弘

公立の小学校に設置されている遊具で発生した事故について、損害賠償責任が認められた裁判例(大阪高等裁判所判決令和6年11月7日判決、(原審)神戸地方裁判所判決令和6年3月13日判決)を紹介します。

事案の概要

本件は、A市立小学校に通学していた当時小学1年生の児童が、令和3年4月26日、校庭に設置された築山状の総合遊具(本件遊具)の斜面部分(本件滑り面)を立ったまま降りた際に転倒し、左大腿骨頸部骨折等の傷害を負った事故です。

児童側は、遊具の設置・管理に瑕疵があった(国家賠償法2条1項)、または教諭の指導監督に過失があった(同法1条1項)として、市(控訴人)に対し損害賠償を求めました。

争点

1.国家賠償法2条1項に基づく責任

本件遊具の設置または管理に瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)があったといえるか。

2.国家賠償法1条1項に基づく責任

学校教諭に職務上の注意義務違反(指導・監督上の過失)があったといえるか。

国家賠償法2条1項に基づく責任について

1.「管理上の瑕疵」の判断方法(一般的な基準)

 

国家賠償法2条1項にいう営造物の設置・管理の瑕疵とは、その営造物が「通常有すべき安全性を欠いていること」を指します。裁判所は、以下の要素を総合的に考慮して判断します。

  • 営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況
  • 通常の用法に即しない行動により事故が生じた場合、その行動が通常予測できないものであれば、瑕疵とは認められません。

2.本件における具体的な判断プロセス

 

本件で大阪高裁は、第一審が瑕疵を否定した判断を覆し、以下の理由から「管理上の瑕疵」を認めました。

「通常の用法」の範囲内であるか

本来、本件滑り面は「座って滑り降りる」ことが意図されたものでした。しかし、実際には多くの児童が立ったまま歩いたり走ったりして降りており、学校側もこれを禁止していませんでした。このため、裁判所は「立ったまま降りる行為」も通常の用法の範囲内であり、予測不可能な行動ではないと判断しました。

 

構造上の危険性

本件滑り面の具体的な構造として、以下の点が危険性を高めていると指摘されました。

  • 傾斜と表面の材質: 平均26度の傾斜があり、人研仕上げ(滑らかな仕上げ)で凹凸がほぼありません。
  • 補助・緩和設備の欠如: 手すりなどの支えになるものがなく、麓に衝撃吸収材も備え付けられていませんでした。
  • 身体制御の困難さ: 立って降りる場合、滑り降りるよりも重心が高くなり、加速を脚力のみで支える必要があるため、途中で制御不能になる可能性が相応にあります。 

利用者の属性(小学1年生)の考慮

特に利用者が小学1年生である点が重視されました。

    • 身体的特徴: 身長に対して頭が大きく重心が高いこと、また運動能力が未熟であることを、学校側は想定しておくべきでした。
    • 習熟度の低さ: 事故当日は、1年生が指導を受けた直後に初めてこの遊具を利用した日であり、危険性はより高まっていました。

過去の事故実績

本件事故以前にも、同じ滑り面を滑り降りた際に、麓で速度を吸収しきれず転倒して顔を負傷する事故が複数発生していました。滑り降りる場合ですら事故が起きている以上、より重心が高くなる「立って降りる」場合の危険性は予見可能であったと判断されました。

3.判断の結果

裁判所は、本件遊具について以下の結論を下しました。

瑕疵の認定:

少なくとも小学1年生に対し、遊具の使用に一定の習熟度が確保されるまでの間、「立って降りることを禁じる」などの措置を講じないまま利用に供したことは、通常有すべき安全性を備えていない(管理上の瑕疵がある)と結論付けられました。

 

市側の反論の退け:

市側は「他にも安全な階段や滑り台があり、児童が自由に選択できた」と主張しましたが、裁判所は「特定の手段を用いるよう指導されていなかった以上、判断を左右しない」として退けました。

このように、本件では「子供(特に低学年)が実際に行っている遊び方」を基準に、その危険性に対して十分な安全策(利用制限や具体的な指導)が取られていなかったことが、管理上の瑕疵として認められた大きなポイントとなっています。

国家賠償法2条1項に基づく責任について

裁判所は、事故そのものの発生を防ぐための「事前指導の義務」と、事故が起きた後の「事後対応の義務」の2つの側面から判断を行っています。

1.事故発生を防ぐための注意義務

この点について、裁判所は「教諭が事前に適切な指導を行っていれば事故は防げた」として、注意義務違反を認めました。

判断方法(基準)

安全配慮義務の具体化:

学校教員は、休憩時間を含む教育活動において、児童の生命・身体に危険が及ばないよう配慮する義務を負います。

 

危険の予見可能性:

その具体的な内容として、「予見可能な危険」を回避するために、遊具の利用方法を制限するなどの適切な指導を行う義務があります。

 

児童の属性の考慮:

特に小学1年生は判断力や身体発達が未熟であるため、より高いレベルの配慮(指導・監督)が求められます。

判断の結果

予見可能性の認定:

本件遊具では、過去5年間に小学1年生が滑り降りた際に転倒し負傷する事故が複数回起きていました。滑り降りる場合ですら事故が起きている以上、より重心が高く不安定な「立ったまま降りる」場合には、さらに大きな怪我をする危険があることは予見可能であったと判断されました。

 

指導の欠如:

教諭らは「鬼ごっこ禁止」や「逆上り禁止」などは指導していましたが、「立ったまま降りてはいけない」「座って滑り降りるべき」という具体的な指導は行っていませんでした。

 

結論:

小学1年生に対してこのような具体的な指導を欠いたことは、注意義務違反(過失)に該当すると認定されました。

2.事故後の対応における注意義務

児童側は「事故後の救護や連絡が不適切だった」とも主張しましたが、裁判所は一部の義務違反を認めつつも、最終的な損害賠償の対象には含めませんでした。

判断方法(基準)

救急処置の適切性:

養護教諭には、怪我の状況に応じて冷却や固定、受診の判断など適切な救護措置を行う義務があります。

 

情報共有の義務:

養護教諭から担任教諭へ児童を引き継いで経過観察を行う場合、どのような症状に注意すべきか具体的な指示・情報共有を行う義務があります。

判断の結果

初期対応は適法:

養護教諭が当初、児童の様子(顔色が良く、足も動かせた等)から「打撲(打ち身)」と判断し、湿布を貼って経過観察としたことは、当時の状況に照らし不合理ではないとされました。

 

指示の欠如(義務違反の認定):

ただし、養護教諭が担任教諭に児童を引き継ぐ際、「顔色が悪くなったり、強い痛みを訴えたりした場合はすぐに連絡するように」といった具体的な経過観察の方法を指示しなかった点については、注意義務違反が認められました。

 

結論:

この事後対応の不手際については義務違反が認められたものの、それが原因で怪我が悪化した(大腿骨頭壊死を招いた)という因果関係までは認められないとして、この点に関する慰謝料請求は棄却されました。

まとめ

大阪高裁は、結論として、第一審が認めた指導上の過失(1条1項)に加え、控訴審では遊具の管理上の瑕疵(2条1項)も認められると判断し、市の責任を認めました。