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国会議員によるSNSへの投稿によって名誉を害された等と主張して削除等を求めた裁判例

2026年4月27日

弁護士 松田直弘

国会議員によるSNSへの投稿にょって名誉を害された党と主張して削除等を求めた裁判例(東京地裁判決令和5年7月18日、(控訴審)東京高裁判決令和6年3月13日、(上告審)最高裁判決令和7年2月6日)を紹介します。

事案の概要

本件は、ジャーナリストである原告(X)が、衆議院議員である被告(Y)によるツイッター(現X)への2件の投稿(以下「本件ツイート1・2」)により名誉を毀損され、名誉感情を侵害されたと主張した事案です。

背景:

原告は、第三者の女性(C)との間の性的加害行為をめぐる別件訴訟において、第一審で賠償を命じられていました。

投稿内容:

被告は、原告が別件の第一審判決後に開いた不服申立ての記者会見を受け、「計画的な強姦をおこなった」「1億円超のスラップ訴訟を仕掛けた」「思い上がったクソ野郎」といった内容を投稿しました。

請求内容:

原告は、人格権に基づき投稿の削除を求めるとともに、不法行為に基づき損害賠償およびツイッター上への謝罪文掲載を求めました。

意見ないし論評の表明による名誉毀損

これについては、最高裁判例により、以下のような判断枠組が示されています。

ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば,その故意又は過失は否定される。

「事実の摘示と「意見ないし論評の表明」の区別

    • 事実の摘示: 「証拠等をもってその存否を決することが可能な、他人に関する特定の事項」を主張することです。
    • 意見ないし論評の表明: それ自体は証拠で真偽を証明できない、表現者の主観的な価値判断や評価を伝えるものです。

判断の基準

 表現がどちらに属するかは、「一般の利用者の普通の注意と読み方」を基準とし、前後の文脈や、投稿当時に読者が有していた知識・経験などを考慮して判断されます。

争点

1.各ツイートが原告の社会的評価を低下させる名誉毀損に当たるか(公共性、公益目的、真実性・真実相当性、意見・論評の域を逸脱していないか)。

 

2.「クソ野郎」などの表現が、社会通念上許される限度を超えた侮辱として名誉感情を侵害するか。

 

3.差止(投稿削除)および謝罪広告掲載請求の可否。

結論

第一審(東京地裁):

本件ツイート2の「クソ野郎」などの表現が人身攻撃に当たり不法行為を構成するとして、その削除と22万円の支払いを被告に命じました

 

控訴審(東京高裁):

第一審の判断を取り消し、本件ツイート1・2はいずれも不法行為には当たらないとして、原告の請求をすべて棄却しました

 

上告審(最高裁):

原告の上告を棄却し、上告受理申立てを受理しないとする決定を下しました。

 

本件ツイート1(「計画的な強姦をおこなった」等の投稿)について

第一審(東京地裁)と控訴審(東京高裁)の判断は共通しており、いずれも不法行為の成立を否定しています

表現の性質:

両審とも、この投稿は事実の摘示ではなく、被告による「意見ないし論評」の表明であると判断しました。

特に「計画的」や「強姦」という用語は、証拠によって存否を決することが可能な事実ではなく、価値判断や法的評価を含む評価的な表現であるとされました。

公共性・公益目的:

ジャーナリストによる性的加害行為の有無という公共の利害に関する事実に関わり、公益を図る目的(性的加害行為等への批判)で投稿されたものであると認められました。

真実相当性:

投稿の前提となっている「合意のない性行為」などの事実は、先行する別件の民事訴訟(第一審)において認定されており、その内容を報じる新聞報道等が存在しました。そのため、被告が内容を真実と信じるにつき相当な理由(真実相当性)があると認められました。

以上の理由から、本件ツイート1は違法性を欠き、名誉毀損には当たらないとして、第一審・控訴審ともに原告の請求を棄却しました

本件ツイート2(「スラップ訴訟」「クソ野郎」等)について

本件ツイート2に含まれる「クソ野郎」などの表現が、正当な「意見・論評」の範囲内か、それとも違法な「人身攻撃」に当たるかという点において、第一審(東京地裁)と控訴審(東京高裁)で判断が分かれました。

1.「クソ野郎」という表現の評価

第一審(違法と判断):

「クソ野郎」という言葉は、直前の「とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がった」という表現とあいまって、原告に対する攻撃的かつ激しい侮辱であるとしました。

被告が原告を非難するにしても、このような攻撃的な表現を用いなければ趣旨が伝わらないとは言えず、全体として人身攻撃に及んでいるため、意見・論評の域を逸脱していると判断しました。

控訴審(適法と判断):

「クソ野郎」という表現は品性に欠けるものの、直ちに「最大級の侮辱」とは断じられないとしました。

「クソ」という言葉は「クソまじめ」のように強意語としても使われるものであり、原告が性的加害行為(第一審判決時点の認定に基づく)を行った上で1億円超の反訴を提起したという事実に対する、否定的な論評(意見の表明)の一部であると捉えました。

したがって、主題を離れた人身攻撃とまでは言えず、意見・論評の域を逸脱していないと結論づけました。

2.表現の自由と「必要性」の捉え方

第一審:

「クソ野郎」という表現を「用いなければ同ツイートの趣旨が一般の利用者に伝わりにくいものであったとはいえない」と言及し、その表現を用いる必要性が乏しいことを違法性判断の根拠の一つとしました。

控訴審:

「意見ないし論評をするに当たってどのような表現を用いるのかは表現者の自由」であると強調しました。

他の表現が可能であるという理由だけで、直ちに意見・論評の域を逸脱することにはならないとの見解を示しました。

3.名誉感情侵害(侮辱)の成否

第一審:

「クソ野郎」という表現は原告の人格的価値を否定する意味が明確であり、社会通念上許される限度を超える侮辱に当たるとして、名誉感情の侵害を認めました。

控訴審:

表現の趣旨や文脈、前提となる原告の行動(性的加害や高額訴訟の提起)を考慮すれば、社会通念上許される限度を超える侮辱とまでは言えず、人格的利益を侵害したとはいえないと判断しました。

総じて、インターネット上の投稿について、表現の形式的な文言だけでなく、その前提となる事実関係や投稿の趣旨を総合的に考慮し、正当な意見・論評の範囲内であるとして、違法性が否定されました。