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日本郵便の寒冷地手当について同一労働同一賃金が争われた事例

2026年9月21日

弁護士 松田直弘

日本郵便の時給制契約社員が、正社員のみに支給される寒冷地手当の格差が不合理な労働条件の相違であるとして損害賠償を求めた事例((第一審)東京地裁令和5年7月20日判決、(控訴審)東京高裁令和6年2月21日判決)を紹介します。

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事案の概要

本件は、日本郵便株式会社(以下、被告)と有期労働契約を締結している時給制契約社員の原告(以下、原告)が、無期労働契約の正社員に対して「寒冷地手当」(現在の名称は「特別調整手当(寒冷地)」)が支給される一方で、時給制契約社員には支給されないことは不合理な労働条件の相違であると主張した事案です。

原告は、この取扱いの相違が旧労働契約法第20条、および法改正後の短時間・有期雇用労働者法(パート有期法)第8条に違反するとして、不法行為に基づき、寒冷地手当相当額(損害)および弁護士費用の支払いを求めて提訴しました。

日本郵便における正社員と非正規社員の格差をめぐっては、先行する最高裁判所3判決(令和2年10月15日判決。夏期・冬期休暇、扶養手当等の格差を不合理と判断)が存在しますが、寒冷地手当については先行訴訟で争点となっていなかったため、本件で初めて司法判断が示されることになりました。

争点

正社員(特に郵便業務を担当する「新一般職」)に対して寒冷地手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違が、労働契約法第20条およびパート有期法第8条にいう「不合理な労働条件の相違」に当たるか否か。

結論

地裁・高裁ともに、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給しないことは「不合理な労働条件の相違には当たらない(適法)」と判断しました。

1. 判断の基礎となる「3つの考慮要素」

正社員(無期契約労働者)と非正規社員(有期契約労働者・パートタイム労働者)との間に労働条件(待遇)の相違がある場合、以下の3つの要素を総合的に考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならない(=合理的でなければならない)とされています。

  1. 職務の内容
    • 労働者が実際に従事している「業務の内容」と、その業務に伴う「責任の程度」(トラブル発生時の対応権限や、求められる成果など)を指します。
  2. 職務の内容及び配置の変更の範囲
    • 今後の人事異動(転勤や部署異動)の有無・範囲、および将来的な職務内容の変更の有無、さらには昇任・昇格(キャリアパス)がどのように予定されているかを指します。
  3. その他の事情
    • 上記2つに直接該当しないものの、個別・具体的に考慮すべき合理的な事情(例:定年後の再雇用であること、正社員への登用制度の存在など)を指します。

2.判断における基本原則

個別賃金項目主義(手当・待遇ごとの個別趣旨判断)

  • 労働条件の格差が不合理かどうかを判断する際、単に「正社員と非正規社員の年収(賃金総額)の比較」のみで判断するのではなく、「争点となっている個々の賃金項目(基本給、各手当、休暇など)の趣旨や目的を個別に考慮して判断すべきである」とされています。
  • すなわち、「基本給全体での格差」や「年収総額の格差」が大きくても、それをもって自動的に「個別の手当(例:寒冷地手当など)の不支給が直ちに不合理になる」わけではありません。その手当が「何のために支給されているのか」という趣旨・目的(生計費補助、長期雇用確保、特定の労働への対価など)を個別に吟味します

賃金項目間の相互関連性の考慮

  • ある賃金項目(例えば特定の手当)の有無や支給内容が、「他の賃金項目(例えば基本給)の有無や決定プロセス」と連動・反映して決定されている場合、その関係性も不合理性判断の考慮要素となります。
  • 手当単体を見るだけでなく、「基本給がどのように設計されているか」という賃金体系全体の仕組みをセットで評価するアプローチです。

3. 本件(寒冷地手当)への枠組みの適用

職務内容や変更範囲の比較(要素1・2):

  • 郵便業務を担当する新一般職(正社員)と時給制契約社員を比較すると、業務内容や責任、配置変更の範囲には「相応の共通点」があると認められました。

手当の趣旨の個別評価(原則①):

    • 寒冷地手当の趣旨は、「地域を問わず全国一律の基本給体系となっている正社員」の間で、寒冷地に勤務することによって増大する暖房費等の生計費負担を緩和し、正社員間の公平を図るためのものであると定義されました。

賃金項目間の相互関連性の考慮(原則②):

    • 一方で、時給制契約社員の基本賃金は、地域ごとの生計費(暖房費等も含む家計調査ベース)をすでに考慮して決定される「地域別最低賃金」を土台にして、勤務地域ごとに異なる水準で定められています。
    • 結果として、時給制契約社員には基本賃金の中に地域的な生計費差(暖房費等)が反映されているため、正社員のように「地域差による不公平を解消するための寒冷地手当」を別途支給する趣旨は妥当しないと判断されました。

4.総合的な評価

新一般職(正社員)と時給制契約社員の間で、郵便業務の内容や配置変更の範囲に一定の共通点があることを考慮しても、上記の「基本給の設計思想の違い(全国一律の基本給+寒冷地手当 vs 地域別の最低賃金ベースの時給)」に基づき、手当の有無という相違が生じることには合理的な理由があるとされました。