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Xにおける出自についての差別的投稿が名誉感情の侵害と判断された事例

2026年9月24日

弁護士 松田直弘

在日コリアン二世のフォトジャーナリストが、自身の出自に関する記事への差別的な投稿に対して損害賠償を求めた結果、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であるとして、名誉感情の侵害が認められた事例(東京地裁令和5年6月19日判決)を紹介します。

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事案の概要

  • 原告は、海外での貧困や難民問題を取材するフォトジャーナリストであり、その父親は在日コリアン二世(韓国籍を有していた)でした。
  • 原告がインターネット上に、父親が韓国籍を有していたことを隠さざるを得なかった背景などを論じた記事(本件原告執筆記事)を掲載したところ、被告はTwitter(現X)上で、この記事に対する応答として、「チョン共が日本に何をしてきたとか…」「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」などと、在日コリアンに対する典型的な差別語(侮蔑・差別的表現)を用いた記事(本件記事)を投稿(本件投稿)しました。
  • 原告は、発信者情報開示の仮処分や開示訴訟の手続きを経て投稿者(被告)の身元を特定し、本件投稿により人格権等を侵害されたとして、被告に対し不法行為に基づく損害賠償(195万円および遅延損害金)を求めて提訴しました。

争点

本件の主な争点は以下の3点です。

  1. 本件投稿は被告が行ったものか(投稿者の特定・争点1)
  2. 不法行為が成立するか(被侵害利益の有無・争点2)
    • 原告が主張する「本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利」が侵害されたといえるか。
    • 原告が主張する「本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティ(出自に関する名誉感情)」が侵害されたといえるか。
  3. 損害額(争点3):慰謝料、および発信者情報開示請求や本件訴訟のために要した弁護士費用が損害として認められるか。

結論

裁判所は、本件投稿が被告によるものであると認め、さらに原告の出自に関する名誉感情の侵害(不法行為の成立)を認めました。

これに基づき、被告に対し、計33万円(慰謝料30万円、本件訴訟の弁護士費用3万円)および遅延損害金の支払いを命じ、原告のその余の請求を棄却しました。

争点1. 本件投稿は被告が行ったものか(投稿者の特定)

開示された直前ログイン時のIPアドレスの契約者が被告であったこと、ログインから本件投稿までの時間差が1時間34分であり不自然ではないことなどから、本件投稿は被告が行ったものと推認するのが相当であると判断されました。

被告は「第三者に自宅のWi-Fiルーターを無断使用された可能性」を主張しましたが、パスワードを設定せずに近隣住民に開放する設定にすることは通常考え難く、具体的な証拠もないとして排斥されました。

争点2. 不法行為が成立するか(被侵害利益の有無)

①「地域社会から排除されない権利」の侵害について

本件記事は広く第三者に対して原告個人への批判や差別的言動を殊更に促すような表現は含まれておらず、原告を地域社会から排除することを煽動するような表現とまではいえないため、この点に関する不法行為は成立しないとされました。

②「民族的アイデンティティ(出自に関する名誉感情)」の侵害について

裁判所は、原告の主張する民族的アイデンティティの法益を、自己の出自に関する人格権としての個人の「名誉感情」(憲法13条)の侵害にあたると解しました。

その上で、本件記事は韓国にルーツを有することを理由に、原告の父親のみならずその子である原告をも侮辱する表現を含んでいると認定しました。

そして、差別的言動解消法や人種差別撤廃条約の趣旨等に照らせば、このような差別的表現を用いて侮辱する行為は社会通念上許される限度を超える侮辱行為であり、原告の出自に関する名誉感情を侵害する不法行為を構成すると判断しました。

争点3. 損害額について

    • 出自を理由とする侮辱による原告の精神的苦痛は軽視できないとしつつ、投稿が応答としての1件にとどまることや更なる差別表現の拡散・繰り返しが認められない等の事情を考慮し、慰謝料は30万円が相当とされました。
    • 発信者情報開示手続きの弁護士費用は支出を裏付ける証拠がないとして認められず、本件訴訟の弁護士費用は慰謝料額の1割にあたる3万円が認められました。