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有期雇用契約における試用期間中の解雇について「やむを得ない事由」が必要と判断された事例

2026年9月28日

弁護士 松田直弘

有期雇用契約における試用期間中に行われた解雇の有効性について、期間の定めがある契約であっても、試用期間中の解雇には通常の解雇より広い裁量が認められる一方で、労働契約法が定める「やむを得ない事由」が必要であるという判断が示された事例(東京高裁令和5年4月5日判決)を紹介します。

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事案の概要

本件は、労働者(控訴人・X)が、使用者(被控訴人・Y)との間で、労働期間を1年間、そのうち当初の3か月間を試用期間とする有期労働契約(以下「本件労働契約」)を締結したものの、試用期間中の約2か月と10日(令和元年12月25日)が経過した時点で解雇(以下「本件解雇」)された事案です。

  1. 当事者:Xは「事務の経験が3年程ある」として採用された労働者(女性)であり、Yは従業員数8〜10人程度の小規模な建設工事・建築金物販売等を行う会社です。
  2. 経緯:Yは、従前の事務職員の定年退職に伴い、Xが「契約書類や請求書の作成」などの能力を備えているとの期待を持って採用しました。しかし、試用期間中におけるXの小口精算帳簿データ入力や見積書作成に多数の誤りがあり、指導後も改善がみられなかったこと、取引先への不適切な発言、夫の不当請求書作成への関与、事務所内での無断録音、書類物色の疑いなどが重なり、試用期間満了前に解雇通告がなされました。
  3. 訴訟の提起:Xは、本件解雇は客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性を欠き、無効であると主張しました。そして、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、および②解雇後の未払賃金等の支払いを求めました。一審(原審)は解雇を有効と判断して請求を棄却したため、これを不服としたXが控訴しました。

争点

本件における主な争点は、「有期労働契約に設けられた試用期間中の解雇」が有効であるか否かです。 具体的には、以下の点が争点となりました。

  1. 労働契約法17条1項の適用の有無:有期労働契約の試用期間中の解雇(留保解約権の行使)において、同条が定める「やむを得ない事由」が必要とされるか。
  2. 有効性判断の基準:必要とされる場合、どの程度の事由があれば「やむを得ない事由」があると認められるのか(判断の厳しさ)。
  3. 解雇事由(能力不足)の有無:Xに、就業規則に定められた解雇事由に該当するような**著しい能力不足(職務不適格)があったか。
  4. 労働契約の更新の有無:解雇が無効であった場合、契約期間満了後に契約更新を期待することについて合理的な理由があるか

結論

裁判所は、Xの控訴を棄却し、本件解雇を「有効」と結論づけました。

争点1. 有期労働契約の試用期間中の解雇(留保解約権の行使)において、「やむを得ない事由」が必要とされるか。

1.なぜこれが争点となるのか

  1. 有期労働契約の中途解雇(原則として極めて厳しい): 労働契約法17条1項により、期間の定めのある労働契約は、その期間中、「やむを得ない事由」がなければ解雇することができません。これは、期間を定めて雇った以上、契約期間中は雇用を継続すべきという強い合意があるため、無期契約の解雇基準(客観的に合理的な理由、社会通念上の相当性)よりもさらに厳しいハードルが課されています。
  2. 試用期間中の解雇(原則として比較的広い解雇の自由がある): 試用期間は、採用当初に知り得なかった労働者の資質や能力を観察・調査するための「解約権留保付きの労働契約」と解されています。そのため、本採用後の通常解雇と比較して、広い範囲で解雇(留保解約権の行使)の自由が認められるべきだとされています(三菱樹脂事件最高裁判決など)。

「極めて解雇しにくい有期契約の中途解雇ルール」と、「比較的解雇が認められやすい試用期間のルール」のどちらを優先、あるいはどう調和させるべきかが争われました。

2.裁判所が示した判断

裁判所は、これについて、二段階の判断フレームワークを採用しました。

【第一段階】「やむを得ない事由」は必要

本件契約が有期労働契約であり、本件解雇が試用期間中の解雇(留保解約権の行使)である以上、有効とされるためには、試用期間経過後の留保解約権行使の基準(客観的合理的理由、社会通念上の相当性)に加え、労働契約法17条1項が定める「やむを得ない事由」があることも要求されるとしました。

【第二段階】ただし、判断は「若干緩やかに」行う

もっとも、当事者間で「試用期間(解約権の留保)」を設定して労働者の適性を観察・判断することに合意していた趣旨を考慮する必要があります。 したがって、解雇に「やむを得ない事由」を要するものの、その存否の判断については、事後の調査や観察を経ない通常の有期労働契約の途中解雇に比べて、「若干緩やかに」行うことが相当であると示しました。

争点3. 解雇事由(能力不足)の有無

著しい能力不足(解雇事由)の認定:

Xが担当した小口精算帳簿のデータ入力や見積書作成(原案の転記)は、比較的単純な文書作成業務でした。

しかし、Xの作成書類には入力漏れ、取引先名の未入力、重複計上、現場名の明らかな誤記が多数ありました。上司が赤字で訂正を入れ、口頭で説明・指導を繰り返したにもかかわらず、提出された訂正版でも同種の誤りが繰り返され、会計帳簿や取引先提出書類としての使用に耐えない状態でした。

したがって、Xの事務能力は期待を著しく下回っており、就業規則上の「試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格」に該当すると認められました。

「やむを得ない事由」の具備

Xの能力不足は、自ら「事務の経験は3年程」と履歴書に記載していたこともあり採用時に把握できるものではなかったこと、Yが従業員数8〜10名程度で事務員が2名しかいない小規模企業であり他部署への配置転換が困難・不可能であること、能力不足のほかに無断録音、取引先への不適切発言(抗議が発生)、夫の不当請求の作成関与などの不適切な行為が相次いでいたこと、3か月の試用期間のうち約2か月10日を経過した時点(残約20日)での解雇であったことなどを総合考慮すると、判断基準を緩めるまでもなく、本件解雇には「やむを得ない事由」があったと判断されました。