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ホテルの運営業務委託契約を締結していたホテル支配人について労働者性が争点となった事例

2026年11月5日

弁護士 松田直弘

原告らはホテルの運営業務を委託された立場でしたが、業務の性質や契約内容を総合的に考慮し、原告らの事業者性と専属性から労働契約法や労働基準法の適用対象となる労働者には該当しないと結論づけられた事例(東京地裁判決令和7年7月10日)を紹介します。

動画による解説はこちらから

事案の概要

当事者:

原告Xら(支配人・甲野および副支配人・乙山)と、被告Y社(全国にホテルをチェーン展開している)。

 

背景:

原告らは「4年で3000万円貯金して夢を叶える人続出」等の求人広告を見て応募し、選考・研修を経てY社との間でホテル運営業務委託契約(本件委託契約)を締結し、店舗(本件ホテル)に住み込んで運営を行っていました。

 

トラブルの発生:

ホテルの稼働率低下に伴う業務改善提案などを巡り対立が生じ、原告らは労働組合(首都圏青年ユニオン)に加入。労働基準監督署への申告を行うとともに、プレスリリースや2度の記者会見を通じて「24時間・365日拘束され裁量のない脱法的な業務委託である」「暴行を受けてホテルから強制退去させられた」等と主張・告発しました。

 

本訴および反訴の提起:

    • 本訴(原告ら): 本件委託契約は実質的に「労働契約」でありY社による契約解除は無効であるとして、主位的に労働契約上の地位確認、予備的に業務委託契約上の地位確認、未払賃金・割増賃金・付加金、およびY社社員による業務奪取行為等の不法行為に基づく損害賠償等を請求して提訴しました。
    • 反訴(被告Y社): 原告らの客室販売登録義務違反、鍵や備品の保管・放置に伴う交換費、居住スペースの明渡遅滞、およびプレスリリース・記者会見による名誉毀損に基づく損害賠償等を請求して反訴を提起しました。

争点

本訴訟における主な争点は以下のとおりです。

労働者性の有無(本訴争点1):

本件委託契約が労働契約(労働基準法・労働契約法上の「労働者」)に該当するか否か。

 

解除の有効性および帰責事由(本訴争点2・5):

Y社による本件委託契約の解除が有効か、また原告らが業務を行えなくなったことにつきY社に帰責事由があるか。

 

未払割増賃金・付加金・不法行為賠償請求の可否(本訴争点4・6):

割増賃金等の支払義務やY社社員による違法な業務奪取(有形力行使等)が認められるか。

 

原告らの債務不履行責任および損害額(反訴争点1・2・3・5):

客室販売登録の怠慢、鍵の放置、ユニフォーム未返還、居住スペース明渡遅滞等に伴う損害賠償責任の有無と範囲。

 

名誉毀損の成否と違法性阻却(反訴争点4):

プレスリリースおよび記者会見での発言がY社の社会的評価を低下させる不法行為(名誉毀損)に該当するか、また真実性・相当性や正当な組合活動として違法性が阻却されるか。

結論

  • 本訴: 原告らの請求をすべて棄却。
  • 反訴: Y社の請求を一部認容(原告らに対し、連帯して305万9773円および遅延損害金の支払いを命じ、その余の請求を棄却)。

争点1: 労働者性の有無

1.労働者性の判断枠組み

裁判所は、労働契約法2条1項および労働基準法9条の「労働者」に該当するか否かについて、従来の最高裁判例や判例実務に沿って、以下の総合判断枠組みを提示しました。

  1. 使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であるか
    • 仕事の依頼・業務指示等に対する諾否の自由の有無
    • 業務遂行上の指揮監督の有無
    • 時間的・場所的拘束性の有無
    • 労務提供の代替性の有無
  2. 労務に対する対償を支払われる者であるか(報酬の労務対償性)
  3. 補強要素
    • 事業者性の有無
    • 専属性の程度

2.各判断要素に対する裁判所の判断

(1)仕事の依頼・業務指示等に対する諾否の自由

判断:

 諾否の自由がないとはいえない(指揮監督関係を直ちに裏付けるものではない)。

 

理由: 原告らが個別の業務依頼を拒否できないのは、本件委託契約に基づき受託業務を履行する義務を負っているためです。また、休暇取得にY社の稟議が必要とされるのもホテル運営に支障を出さないためであり、委託契約を離れてY社が原告らの個別労務管理を行っていたとは評価できないとされました。

(2)業務遂行上の指揮監督の有無

判断:

 業務遂行上の指揮監督関係は認められない。

 

理由:

    • マニュアルの遵守・ライセンス評価制度: 原告らはマニュアルの遵守義務や「支配人ライセンス評価表(グレード4以上維持の努力)」等を負っていましたが、これらは「スーパーホテル全体のブランド力やノウハウを活用し、Y社が設定する統一的な質と水準で運営して収益を最大化する」という本件委託契約の目的に基づくものであると認定されました。したがって、労働法上の「使用者の指揮監督」とは異なると判断されました。
    • 報告義務・指導助言: 毎月の売上・稼働率等の報告義務や、Y社社員による定期訪問・イールドコントロール等の指導助言も、客観的な数値分析やホテル経営ノウハウに基づくサポートを目的とするものであり、指揮監督関係を基礎付けるものではないとされました。
    • アルバイトの評価(スター制度)への関与: Y社がアルバイトの5段階ランク制度(スター制度)を定めている点も、サービスの均質化・スキル向上を目的とした契約目的範囲内の取り組みに過ぎないとされました。

(3)時間的・場所的拘束性の有無

判断:

 一定の拘束はあるが、指揮監督によるものではなく「業務の性質・契約内容」に由来する。

 

理由: 365日営業、住み込み居住、消防計画に基づく夜間2名常駐といった拘束は認められるものの、これらは指揮監督の必要性からではなく、**「ホテル運営という業務の性質」**から生じるものです。また、Y社が提示するワークスケジュールやアルバイト補助金についても、原告ら自身にアルバイトの採用・シフト・賃金設定の決定権限(裁量)があったため、原告らの勤務時間がY社に枠付け・管理されていたとはいえないとされました。

(4)労務提供の代替性の有無

判断:

 代替性がないとはいえない(代替性あり)。

 

理由: 契約上、第三者への再委託は禁止されていましたが、これはY社のノウハウ・審査・研修を経た者に限るという契約目的に由来するものです。原告らは自身の裁量でアルバイトを雇用して業務を担当させることができ、代行要員の活用制度も存在していたため、代替性が否定されるわけではないとされました。

(5) 報酬の労務対償性

判断:

 労務対償性を認めることは困難。

 

理由: 業務委託料のうちアルバイト補助金を除く基本部分は「店舗の客室数と契約年数」で決まり、それ以外の報奨金(ライセンス報酬・IT報奨金・業績報奨金)も「売上・利益・自社サイト予約比率などの成果・グレード」に連動して支給されるため、一定時間の労務提供の対価(時間給・固定給的性質)とは認められないとされました。

3.補強要素(事業者性・専属性)の評価

事業者性の有無:

ホテル建物・設備・什器をY社が調達・所有し、清掃業者等の費用もY社が負担している点は、「事業者性を否定する(労働者性をうかがわせる)事情」として認められました。

 

専属性の程度:

365日営業かつ2人常駐が必要であり、他業に従事することが困難であることや、報酬に生活保障的要素があることから、「Y社への専属性は認められる」と判断されました。

4.裁判所の総合結論

裁判所は、事業者性の否定や専属性といった労働者性を補強する事情が存在することを考慮しても、

 

  • 個別指示への拒否不能やマニュアル遵守・指導助言は「委託契約の目的に基づくもの」であること
  • 時間的・場所的拘束は「業務の性質」から生じるものであること
  • 「業務遂行上の指揮監督関係」が認められないこと
  • 「報酬の労務対償性」も認めがたいこと

 

これらを総合し、原告らは労働基準法および労働契約法上の「労働者」には該当せず、本件委託契約は労働契約とは認められないと結論付けました。