定期建物賃貸借契約において、契約期間の中途で解約する事は可能か
2026年6月20日
弁護士 松田直弘
定期建物賃貸借契約において、契約期間の中途で解約する事は可能か、について解説します。
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概要
定期建物賃貸借(定期借家)契約において、期間の中途で解約ができるかどうかは、「借地借家法に基づく法定の解約権」があるか、または「契約書に中途解約権を留保する特約」があるかによって異なります。
原則として、定期借家契約は契約期間が定められており更新がない契約であるため、期間途中の解約は認められません。
しかし、一定の要件を満たす居住用建物については、賃借人に法律上の中途解約権が認められています。
また、契約当事者間で合意した特約がある場合には中途解約が可能となりますが、賃貸人からの解約には正当事由が必要となるなど、賃貸人と賃借人で適用される法理が異なります。
中途解約の原則的禁止
1.原則としての解約不可:
定期建物賃貸借契約は、期間の満了により当然に終了することを本質とする制度であり、原則として期間の途中で解約することはできません。
2.民法上の根拠:
民法618条は、期間の定めがある契約において「解約をする権利を留保したとき」に中途解約ができると定めています。
これに基づき、特約(中途解約権の留保)がない限り、期間の定めのある賃貸借契約を一方的に終了させることはできないと解されています。
裁判例(最判昭48・10・12、東京地判平23・5・24等)においても、解約権を留保していない当事者による期間内の一方的な解約申入れは無効であると判断されています。
賃借人による法定の中途解約権(借地借家法38条)
一定の要件を満たす定期借家契約の場合、賃借人は契約書に規定がなくても、法律に基づき中途解約を申し入れることができます。
1.適用要件:
以下の要件をすべて満たす必要があります。
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- 居住用建物であること(店舗兼居住用も含む)。
- 床面積が200平方メートル未満であること。
- やむを得ない事情(転勤、療養、親族の介護等)により、賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったこと。
2.効果と期間:
解約の申入れから1か月を経過することによって契約が終了します。
3.強行規定性:
この規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効となります。これは、賃借人にとって不利な契約形態である定期借家制度を導入する際、賃借人保護の観点から設けられた手当てです。
特約による中途解約権の留保
1.賃借人からの解約特約
契約書に「賃借人は〇か月前に予告することで解約できる」等の特約がある場合、賃借人はその定めに従って中途解約が可能です。
借地借家法38条の法定要件を満たさない場合(200平方メートル以上や事業用など)であっても、この特約があれば解約が認められます。
特約がない場合、民法の原則(618条、617条)の準用により、解約申入れから3か月で終了するとされていますが、実務上は予告期間や即時解約のための賃料支払(損害金)を定めることが一般的です。
2.賃貸人からの解約特約
契約書に賃貸人からの中途解約権を認める特約がある場合でも、その有効性には制限があります。
1.正当事由の必要性:
賃貸人からの解約申入れには、借地借家法28条に規定される「正当事由」が必要となります。
これには、賃貸人・賃借人双方の建物使用の必要性、賃貸借の経過、利用状況、立退料の提示などが考慮されます。
2.有効性の議論:
賃貸人からの中途解約特約は、賃借人に不利なものとして借地借家法30条に抵触し無効とする考え方がある一方、正当事由がある場合に限って有効とする考え方もあります。ただし、ガイドライン等では、オーナー(賃貸人)からの途中解約は原則としてできないと説明すべき事項とされています。
3.解約に伴う違約金と効果
- 違約金・解約金の有効性:
中途解約を認める代わりに違約金(残存期間の賃料相当額や保証金の没収など)を支払う特約は、当事者間の自由な意思に基づく合意であり不合理でなければ、原則として有効であると判断する裁判例があります。
ただし、居住用建物については消費者契約法9条1号により、平均的な損害を超える部分が無効とされる可能性があります。
- 解約の効果(非遡及効):
賃貸借契約の解除・解約の効果は「将来に向かってのみ」生じます(民法620条)。
これは継続的な契約であるため、過去に遡って原状回復を行うことによる法律関係の複雑化を防ぐ趣旨です。
賃貸人からの中途解約を認めた裁判例
賃貸人による中途解約を肯定した裁判例では、特約の有効性を認めた上で、具体的な正当事由の有無を検討する傾向にあります。
1.正当事由を認めた事例(東京高判平成30年10月31日):
賃貸人と賃借人の双方が正当な理由がある場合に解約できるとの条項について、当事者双方に同一の要件で解約を可能とするものであり有効と判断しました。
その上で、賃貸人側の敷地再開発の必要性が高い一方で、賃借人側の建物使用の必要性が相当低いこと、および2億円を上限とする相当額の立退料の申出があることを考慮し、解約の正当事由を認めました。
2.特約の有効性を認める裁判例
(東京地判令和2年2月7日、東京地判平成28年3月1日等):
中途解約には正当事由を要すると解される限りにおいて、賃借人の保護は図られるため、特約自体の効力を肯定する考え方が示されています。
3.一般的な実務傾向:
裁判例では一律に無効とはせず、特約自体の効力を肯定することが多いとされています。
これは、賃貸人による解約申入れには借地借家法28条の正当事由が要求されるため、中途解約条項そのものが必ずしも賃借人の不利益になるとは限らないという理由に基づきます。
解約が認められなかった裁判例と制限の理由
特約があっても、正当事由の欠如や強行規定違反を理由に、賃貸人からの解約が否定されるケースも多く見られます。
1.正当事由なしとして棄却された事例(東京地判平成23年1月28日):
違約金を支払えば正当事由がなくても解約できるとした特約について、借地借家法28条に違反すると判断されました。賃貸人が建物の使用を必要とする事情を主張していなかったため、正当事由は認められず、解約請求は棄却されました。
2.不利益特約として無効とする判断(東京地判平成26年8月5日等):
賃貸人からの中途解約を認める定めは、賃借人に不利な特約を禁止する借地借家法30条(定期借家の場合は38条の準用規定)に抵触し、無効であると判断する裁判例も存在します。
3.立退料の役割:
立退料の提示は、それのみで正当事由を基礎付けるものではなく、賃貸人側の使用必要性を補完する要素とされています。損失の全部を補償するに足りる額である必要はないものの、他の事情と併せて考慮されます。