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正社員と契約社員の賃金格差が合理的、あるいは不合理と判断された事例

2026年7月4日

弁護士 松田直弘

正社員と契約社員との間において、諸手当の支給に格差がある場合に、合理的、あるいは不合理と判断され、また一時金の不支給が不法行為だと主張した裁判例((第一審)津地裁令和5年3月16日判決、(控訴審)名古屋高裁令和6年8月12日、(上告審)最高裁令和8年2月13日)を考えていきます。

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事案の概要

本件は、被告(会社)と期間の定めのある有期労働契約を締結して工場で勤務していた原告らが、無期労働契約を締結している正社員との間で、通勤手当、扶養手当、リフレッシュ休暇、賞与、基本給、年次有給休暇、特別休暇、福利厚生等の労働条件に相違があることは労働契約法20条(改正前)(現行パートタイム・有期雇用法8条、9条)に違反すると主張し、不法行為に基づき損害賠償等を求めた事案です。

また、原告らは「契約当初から『有期雇用契約社員』ではなく『準社員』の地位にあった」と主張し、準社員に支給されるべき賞与(一時金)が支払われなかったことについて、主位的に不法行為に基づき、予備的に労働契約(準社員就業規則)に基づき支払いを求めました。

争点

主な争点は以下の通りです。

  1. 原告らが当初から準社員であったといえるか(準社員就業規則が適用され、賞与等の請求権が発生するか)。
  2. 労働契約法20条違反の有無:正社員と原告らとの間における、通勤手当、扶養手当、リフレッシュ休暇、賞与・基本給、年次有給休暇(付与日数および半日取得の可否)、特別休暇、福利厚生等の各労働条件の相違が、同条にいう「不合理と認められるもの」に当たるか。
  3. 賞与(一時金)不支給による不法行為の成否(最高裁における主な争点):仮に賞与の請求権があった場合、その不払いが不法行為を構成するか。

結論

  • 労働契約法20条違反について扶養手当、リフレッシュ休暇、特別休暇の不付与、および年次有給休暇の半日単位での取得不可について、正社員との相違は不合理である(同条違反)と判断され、不法行為に基づく損害賠償が認められました。一方、通勤手当、賞与や基本給などの賃金格差、年次有給休暇の付与日数、福利厚生の相違については、不合理とは認められず適法とされました。
  • 準社員としての地位に基づく賞与(一時金)請求について: 最終的な最高裁の判断により、賃金債権(一時金)が支払われなかったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は棄却されました。

前提

職務の内容等の違い

 正社員と有期雇用契約社員(原告ら)とでは、従事する業務の内容(正社員には生産条件の変更やトラブル対応などの管理業務がある)や責任の程度、配置転換(転勤等)の範囲に大きな違いがあると認定されました。

労働契約法20条違反(不合理な格差)であると認定された労働条件

1.扶養手当の不支給

事実関係:

 会社は正社員に対し、扶養義務のある子供や重度障害者1人につき月額1万円の「扶養手当」を支給していましたが、有期雇用契約社員には支給していませんでした。会社側は、この手当の趣旨を「正社員は長期雇用が前提であり、家族関係の変動による生活費増加をフォローして、管理職候補となる人材を確保・定着させるため」と主張しました。

 

裁判所の判断:

 裁判所は、扶養手当の目的(生活保障を通じた継続的な雇用の確保)は、有期雇用契約社員であっても「相応に継続的な勤務が見込まれる」のであれば同様に妥当するとしました。実際、有期雇用契約社員は特段の事情がなければ契約更新されており、40%弱の有期雇用契約社員が約9年間も継続して勤務している実態がありました。このように長期にわたって勤務している実態がある以上、有期雇用契約社員に対する不支給は不合理であると判断されました。

2.リフレッシュ休暇の不付与

事実関係:

 会社には正社員を対象とした「リフレッシュ休暇制度」があり、勤続10年、20年、30年の節目に数日間の特別休暇と旅行券(3万円〜30万円相当)などが支給されていましたが、有期雇用契約社員にはこの制度が適用されていませんでした。会社側は「正社員を対象に今後の長期勤続を期待し、リフレッシュさせるため」と主張しました。

 

裁判所の判断:

 裁判所は、この制度の目的を「長期間の勤続に達した者に対する報償」や「心身の疲労回復」であると認定しました。その上で、有期雇用契約社員の担当する反復継続的で比較的単純な作業であっても、長期間勤務すれば心身に疲労は蓄積すること、また会社側も熟練した作業者が就労を継続することによる利益を得ていることを指摘しました。したがって、実際に長期雇用に至っている有期雇用契約社員にこの制度を適用しないことは不合理であると判断されました。

3.特別休暇の不付与・格差

事実関係:

 正社員には、本人の結婚(7日以内)や親族の服喪(最大7日以内)などの際に有給の「特別休暇」が与えられていました。一方、有期雇用契約社員には特別休暇が一切なく、準社員にも制度自体はあったものの、正社員に比べて付与日数が少なく(本人の結婚で5日など)、条件も限定されていました。会社側は「正社員の待遇を手厚くして有能な人材の獲得・定着を図るため」と主張しました。

 

裁判所の判断:

 裁判所は、特別休暇の目的は「冠婚葬祭等の特別な事情に準備・対応する期間を確保すること」であるとしました。冠婚葬祭等で必要となる日数は、正社員であるか有期雇用契約社員等であるかといった職務内容や雇用の違いによって変わるものではありません。また、特別休暇が必要となる事態の発生頻度は高くなく、人材確保を目的とした制度とは認められないとして、有期雇用契約社員への不付与や、準社員への日数の格差は不合理であると判断されました。

4.年次有給休暇の半日単位での取得不可

事実関係:

 正社員や準社員は、年次有給休暇を「1日または半日単位」で取得できる規定になっていましたが、有期雇用契約社員は「1日単位」でしか取得できませんでした。会社側は、有期雇用契約社員が会社手配の通勤バスを利用していることから「半日休暇を認めると通勤バスによる対応ができなくなる(帰宅手段がない)」ことや、「シフト制で勤務しているため対応が困難である」と主張しました。

 

裁判所の判断:

 裁判所は、半日休暇の趣旨は「柔軟に有給休暇を取得できるようにし、有効活用させること」であり、正社員と同程度の労働時間で働く有期雇用契約社員にもその必要性は妥当するとしました。会社側の主張に対しては、正社員もシフト制に組み込まれているため理由にならないとし、また帰宅手段についても「家族の送迎など、半日取得を申し出る労働者自身が検討すればよいこと」であり、会社が半日取得をさせない正当な理由にはならないと一蹴し、この格差を不合理と認定しました。

労働契約法20条に違反しない(合理的な格差)であると認定された労働条件

1.賞与(ボーナス)および基本給の格差

事実関係:

 正社員には、基本給(職務遂行能力や成果に応じた定期昇給あり)に加え、業績等に連動しつつ最低でも基本給1.5か月分が保障された賞与(平均して年間約5か月分)が支給されていました。一方、有期雇用契約社員の賃金は時給制(後に準社員として月給制となるも少額の昇給にとどまる)であり、賞与の支給規定はなく、準社員となった後でも上長の査定に基づく年間約2か月分の「一時金」が支給されるのみでした。

 

裁判所の判断(適法・合理的): 

正社員と有期雇用契約社員等とでは、「職務の内容」および「配置の変更の範囲」に大きな違いがあると認定されました。正社員は、生産条件の変更判断、トラブル対応、作業指示書の作成、危険物の取扱、各種社内文書の起案・決裁などの高度な知識や判断力を要する業務を行っており、将来の幹部候補として全国や海外への転勤の可能性もありました。一方、有期雇用契約社員は、主に正社員の指示の下で比較的単純な反復継続的作業を行っており、事業所を超える異動もありませんでした。 正社員への基本給の昇給や手厚い賞与は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保や定着を図る目的によるものであり、職務内容や責任の程度が大きく異なる有期雇用契約社員等に対する不支給や格差は、直ちに不合理であるとは認められませんでした。

2.通勤手当の不支給

事実関係:

 正社員(および準社員)には、実際の通勤距離に応じた通勤手当(月額)が支給され、自家用車での通勤も認められていました。一方、有期雇用契約社員には通勤手当の支給や駐車場の利用が認められていませんでした。ただし、会社はその代わりとして、有期雇用契約社員の居住地近くを通る無料の「通勤バス」を手配していました。

 

裁判所の判断(適法・合理的):

 通勤手当の趣旨は通勤に要する費用の補填であり、この点は有期雇用契約社員にも妥当します。しかし、会社は通勤バスという十分な代替手段を提供して交通費を負担しており、有期雇用契約社員も採用時にそのルートを確認し、通勤バスを利用することに合意していました。また、駐車場の収容台数に限界があり、全員に自家用車通勤を認めるのは物理的に不可能であったことや、正社員は緊急時対応等があり定時退社が限らないという職務上の違いも考慮されました。代替手段が機能している以上、手当の不支給は不合理ではないと判断されました。

3.年次有給休暇の付与日数の格差

事実関係: 

正社員には、採用当初から労働基準法の基準を大きく上回る日数(初年度最大16日など)の年次有給休暇が付与されていました。一方、有期雇用契約社員に対する付与日数は、最初の5年間は労働基準法が定める最低基準(初年度10日など)にとどまっていました。ただし、勤続6年目以降は、有期雇用契約社員も正社員と同じ最大日数(20日)が付与される仕組みでした。

 

裁判所の判断(適法・合理的): 

正社員は採用時点から長期にわたって働き続けることが想定されているため、会社は人材確保のために当初から手厚く休暇を付与する合理性があります。一方、有期雇用契約社員の離職率は年間約10%に上っており、採用から5年以内は長期継続雇用が確実とは言えません。しかし、現実的に長期雇用が見込まれる勤続6年目の時点では正社員と同日数の20日が付与されることから、採用後1〜5年目における付与日数の差は不合理とまでは言えないと判断されました。

4.会社施設の利用や福利厚生(I福祉基金)の利用不可

事実関係:

 正社員等は、月額数百円の会費で祝金、弔慰金、医療援助等を受けられる「I福祉基金」という互助組織の会員になれましたが、有期雇用契約社員は加入できませんでした。

 

裁判所の判断(適法・合理的): 

「I福祉基金」は会社とは別の任意の福利厚生団体であり、会社がどの雇用の従業員を入会させるかについての決定権限を持っているわけではありません。また、特定の労働者集団の互助組織の会費を会社が補助するかどうかは、使用者の雇用・人事に関する経営判断として許容される範囲であり、加入できないことによる待遇差が直ちに会社の不合理な格差(不法行為)に当たるとはいえないとされました。

一時金(賞与)不払いを理由とする不法行為責任は否定

金銭を支払うべき義務を果たさないこと(債務不履行)自体は、債権者である労働者の「不法行為法上の権利利益」を侵害するものではないため、ただ「一時金が支払われなかった」という事実だけでは、不法行為は成立しない。