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図工の授業中に同級生を負傷させた事故について,指導教諭に工具の使用方法に関する説明指導義務及び監視義務を怠った注意義務違反があると認められた事例

2026年6月27日

弁護士 松田直弘

図工の授業中に同級生を負傷させた事故について,指導教諭に工具の使用方法に関する説明指導義務及び監視義務を怠った注意義務違反があることにより、国家賠償が認められた裁判例((第一審)神戸地裁姫路支部判決令和4年5月9日、(控訴審)大阪高裁令和5年1月12日)を紹介します。

動画による解説はこちらから

事案の概要

  • 令和元年11月、公立小学校の4年生の図画工作の授業中において、児童(原告)が木材に釘を打ち込んだところ、釘の頭がめり込んでしまい抜けなくなるという事態が生じました。

 

  • 原告は同級生とともに、授業担当の教諭が以前に実演して説明していた「マイナスドライバーの先端を釘の頭と木材の間に差し込み、手首をひねって釘の頭を起こす方法」を試みました。

 

  • しかし、マイナスドライバーの先端をうまく差し込むことができず、同級生が力を入れたところ、マイナスドライバーが前方に滑り、向かい側で木材を押さえていた原告の左眼に先端が当たる(刺さる)という事故が発生しました。

この事故により原告は左外傷性角膜穿孔などの傷害を負い、視力低下や複視が残る後遺障害が生じました。

そのため、原告は教諭の過失を主張し、市(被告)に対して国家賠償法第1条1項に基づく約2400万円の損害賠償を求めて提訴しました。

争点

本件では、図工の授業を担当した教諭に以下の注意義務違反(過失)があったか否かが主な争点となりました。

1.マイナスドライバーの使用自体を指導してはならない義務違反

2.マイナスドライバーの使用方法に関する説明義務及び指導義務違反

3.マイナスドライバーを使用する際の席の配置につき注意すべき義務違反

4.児童の行動及び立ち位置を監視すべき義務違反

5.(過失が認められる場合の)損害額

結論

1.第一審(神戸地裁姫路支部)

教諭の過失を否定し、原告の請求を棄却しました。

 

2.控訴審(大阪高裁)

第一審判決を変更し、教諭の「説明指導義務違反」および「監視義務違反」を認め、市に対して約2084万円の損害賠償の支払いを命じました(一部認容)。

マイナスドライバーの使用指導とその危険性について 

マイナスドライバーは本来ねじの締め緩めを行う工具であり、釘抜きに用いる方法は学習指導要領等には記載されていません。

小学4年生でマイナスドライバーを扱うこと自体は許容される余地があるとしても、本来の用途と異なる方法で用いる場合には、教諭は危険性を予測し、より慎重に安全に配慮した指導をする必要があります。

マイナスドライバーの形状や素材(滑りやすいプラスチック製の持ち手など)から、先端をこじ入れようとして滑った場合、他の児童に当たる危険性が十分にあると判断されました。

説明義務及び指導義務違反について

1. 作業の難易度の高さと危険性 

マイナスドライバーを釘抜きとして用いる作業は、微妙な力の入れ加減を必要とするため、使い方に習熟していない小学4年生にとっては難易度の高い作業でした。

先端をうまく差し込めずに必要以上に力を入れた結果、プラスチック製の持ち手で滑りやすいドライバーの先端が前方に滑る(飛び出す)危険性が十分にありました。

2. 教諭の誤った認識

 教諭は、「教材の木材は柔らかいため、小学4年生でも十分にマイナスドライバーを差し込むことができる」と思い込み、この作業が特に危険なものとは考えていませんでした。

しかし実際には、児童が制作していた教材の釘の穴付近には、木材が何度も擦られた跡が残るほど差し込むのが困難な状態でした。

3. 安全配慮への具体的な怠り(義務違反行為)

 上記のような危険を伴うため、教諭がこの方法を指導するにあたっては、「作業を行っている際には、周囲(特に前方)に他の児童が近づかないよう説明して注意喚起すること」や、「作業を行う際には周囲に他の児童がいないことを確認した上で行うよう説明すること」が求められていました。

しかし、教諭はこれらの説明を一切行わず、また作業をしている児童の周囲に他の児童が近づかないように指導することもありませんでした

教諭はマイナスドライバーの危険性について特別な注意や説明をしていませんでした。

4. 指導不足によって生じた事故の状況 

教諭が危険性や周囲との距離に関する指導を怠った結果、同級生(D)が原告の作業を手伝うために不注意に近づくことになりました。

そして、両名が向かい合った状態で、一方が木材を押さえ、一方がドライバーを使うという危険な位置関係のまま交互に作業に取り組む事態を招きました。

その結果、同級生が手にしたマイナスドライバーが前方に滑り、向かい合っていた原告の左眼に当たるという本件事故が発生しました。

監視義務違反について

1. 児童らの危険な作業状況(向かい合っての反復作業)

 控訴人(原告)と同級生Dは、一方が木材を押さえ、もう一方がマイナスドライバーを持って釘の頭を起こすという「向かい合った状態」で危険な作業に取り組んでいました。

しかも、一度で釘の頭を起こすことができなかったため、二人は交互に複数回にわたってこの作業を繰り返していました

2. 教諭の無関心と図工室の不在(監視の空白)

 教諭は、児童らが上記のように向き合って危険な作業を複数回繰り返していたことに全く気付いていませんでした。

高裁は事実認定を変更し、本件の正味の作業時間(約33分)のうち、教諭が図工準備室に行ったり廊下に展示物を置きに行ったりして、合計68分間も図工室を不在にし、児童を監視していない状況を作っていたことを指摘しました。

さらに教諭は、マイナスドライバーを使っていたことや向かい合っていたことだけでなく、事故発生時に被害児童が「痛い」と声を上げ周囲の児童が心配して集まったことや、被害児童が自ら保健室へ向かったことすら認識しておらず、事故発生時に図工室内にいたかどうかも明らかではない(不在だったと判断される)状況でした。

3. 注視していれば事故は防げたという回避可能性

 事故そのものが起きたのは一瞬の出来事であったとしても、教諭が図工室全体の児童の動静をしっかりと注視していれば、児童らが向き合って危険な作業をしていることに気付くことは可能であったと判断されました。

気付いていれば、作業を中断させたり、向き合って作業しないよう指示したりすることで、本件事故の発生を防ぐことができたと認定されています。

4. 「困ったら声を掛けるように」という指導では不十分

 被告(市)側は、「指導どおりに作業ができないときには教諭に声を掛けるよう注意喚起していた」と反論し、義務違反はないと主張しました。

しかし高裁は、この注意喚起はあくまで「作業を円滑に進めるためのもの」であり、「危険な作業に伴う事故を防ぐためのもの」ではないとして退け、監視義務違反を免れる理由にはならないと一蹴しました。