保育園が園児にアレルギー反応やアナフィラキシー症状を発症させる事故を2回にわたり起こした事例から慰謝料を考える
2026年6月25日
弁護士 松田直弘
保育園を運営する法人が園児にアレルギー反応やアナフィラキシー症状を発症させる事故を2回にわたり起こしたことについて慰謝料等の損害賠償が認められた事例(福岡地方裁判所判決令和6年4月26日)を紹介し、慰謝料について考えます。
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事案の概要
令和2年5月および6月に、被告法人が運営する保育園において、食物(鶏卵および小麦)アレルギーを持つ当時2歳の男児(原告)に対し、誤って原因食材を含む給食等が提供された事案です。
1回目の事故(5月26日):
鶏卵を含むプリンが提供され、原告は蕁麻疹などのアレルギー反応を発症し、病院へ救急搬送されて1日治療を受けました。
2回目の事故(6月11日):
担任保育士(被告A)が誤って小麦を含むパスタを提供し、原告は呼吸困難を伴う重篤なアナフィラキシー症状を発症して2日間入院しました。
これらを受け、原告は被告らに対し、不法行為および使用者責任に基づき慰謝料等の損害賠償を求めました。
争点
本件各事故によって生じた原告の損害額(特に慰謝料の額)が争点となりました。
慰謝料の算定基準について
原告は、入通院期間を基礎とする交通事故の慰謝料算定表(いわゆる「赤い本」)をアレルギー事故に形式的に当てはめるべきではないと主張しました。
これに対し裁判所は、同基準は合理性と客観性を備えており広く用いられているため、保育園で生じた事故による園児の慰謝料算定に当たり「赤い本」を参考とすることは許容されると判断しました。
ただし、算定表を形式的に当てはめるのではなく、同表の基準額(1日通院、2日入院)よりも高額な慰謝料を認定しています。
1回目の事故における考慮要素
被害の程度・負担(増額要素):
原告が当時2歳の男児であり、蕁麻疹等のアレルギー反応を発症して救急搬送され、病院で1日治療を受けたことによる身体的・精神的な負担は決して小さくなかったと評価されました。
被告側の過失・落ち度(増額要素):
食材の誤発注という調理師の基本的かつ容易な注意義務の懈怠に起因したことや、事故発覚から救急通報まで約28分を要し応急措置に迅速性を欠いたことなど、被告法人側の落ち度が大きいと指摘されました。
症状の重症度(減額・抑制要素):
一方で、原告の症状がアナフィラキシー症状には至らないものであったことが考慮されました。
2回目の事故における考慮要素
症状の重篤性・危険性(増額要素):
約4時間にわたり呼吸困難による酸素投与を要するほどの重篤なアナフィラキシー症状を発症し、2日間の入院を余儀なくされたことが重視されました。また、担当医師が幼児には適応に疑義のある例外的処方の検討を余儀なくされるほどの危険な状況に陥ったことから、原告の身体的・精神的負担は相当大きかったと評価されました。
短期間での事故再発(増額要素):
本件保育園の園長が1回目の事故後にミスを認めて再発防止策を講じたにもかかわらず、そのわずか16日後に再び事故を発生させた点が重くみられました。
被告側の事故後の対応(減額・抑制要素):
事故後、被告法人側が両親に謝罪した上で、見舞金3万円の支払いや、原告および兄弟の入園時費用・保育料など計8万9370円の返還(金銭的補償)を行ったことが考慮されました。
その他の考慮要素(両事故共通)
算定基準の適用と修正:
慰謝料算定にあたっては、交通事故で用いられる「赤い本」の基準を参考にすることが許容されましたが、上記のような個別の事情を総合的に考慮した結果、形式的に基準を当てはめるのではなく、同表の基準額(1日通院、2日入院)よりも高額な慰謝料が認定されました。
両親の精神的苦痛の扱い:
両親が強い不安や怒りを感じたことは理解し得るとしつつも、「両親の精神的苦痛の多寡により親とは別人格である原告の損害額が直ちに左右されるものではない」として、親の精神的苦痛は原告本人の慰謝料増額事由としては採用されませんでした。