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中学校の教員が生徒に対するいじめの発生を防止(予防)すべき義務や生徒に対するいじめを発見すべき義務に違反したとはいえないとされた事例

2026年6月29日

弁護士 松田直弘

市立中学校で起きた生徒の自死を巡り、遺族が市に対して、学校が部活動内でのいじめを防止・発見する義務を怠ったことや、その後の調査報告および卒業式での対応が不適切であったと主張したものの、学校側の安全配慮義務違反を否定した裁判例((第一審)名古屋地裁判決令和6年3月19日、(控訴審)名古屋高裁判決令和6年12月20日)を紹介します。

動画による解説はこちらから

事案の概要

市立中学校に転入してきた生徒が、部活動において特定の生徒から練習相手をしてもらえない、無視されるなどのいじめ(本件いじめ)を受け、その後自死(本件事故)しました。

これを受け、生徒の父母(原告/控訴人)が、学校を設置する自治体(被告/被控訴人)に対し、以下の理由から国家賠償法11項に基づき損害賠償を求めた事案です。

  • 学校の教員が安全配慮義務に違反したことにより、いじめを防げず生徒が自死に至るほどの苦痛を被った。
  • 教育委員会や学校が、自死についての調査報告義務に違反した。
  • 卒業式での対応や事故直後の校長の発言が、両親を殊更に傷つける違法なものであった。

争点

本件の主な争点は以下の通りです。

1.本件生徒に対する安全配慮義務違反の有無

(いじめ発生予防義務、およびいじめ発見義務の違反があったか)

2.原告らに対する調査報告義務違反の有無

3.原告らを殊更に傷つける本件学校の対応の違法性

(卒業式への参加に関する対応、校長の発言など)

4.損害額

(および因果関係)

結論

第一審(名古屋地裁)、控訴審(名古屋高裁)ともに、原告の請求をいずれも棄却しました(学校側の国家賠償法上の違法性や責任は認められませんでした)。

いじめはあったのか

「いじめ」として主張されている事実関係そのものは、裁判において「あった」と認定されています。

平成2911月後半頃から12月前半頃にかけて、本件生徒が所属するソフトテニス部において以下の事実があったことが認定されています。

  • 特定の生徒から、練習相手を頼んだにもかかわらず手伝ってもらえず、無視されたこと。
  • ほかの複数の生徒から、練習を手伝ってもらえないことがあったこと。

安全配慮義務違反(いじめ予防義務・発見義務)について

裁判所は、教員はいじめを受けるおそれがあることを「具体的に予見」できた場合に予防義務を負い、いじめを受けていることを「具体的に認識」できた場合に発見義務を負うという基準を示しました。

1.いじめを「具体的に予見」できたとはいえない(予防義務違反の否定)

生徒は2学期に県外から転校してきたことや、10月に実施された心理テスト(ハイパーQU)等で「学級生活不満足群」に該当し、いじめ被害を受ける可能性が高い状態にあるなどの結果が出ていました。

このことから、教員は「何らかのいじめや悪ふざけを受けるおそれ」を一般的・抽象的には予見できたと裁判所は認定しました。

しかし同時に、アンケートには「言われてうれしかった言葉」も複数記載されていたことや、この心理テスト等が行われた10月当時は、後にいじめの舞台となるソフトテニス部にまだ正式に入部していなかったという事実がありました。

そのため、「ソフトテニス部で特定の生徒から無視される」といった本件いじめそのものを具体的に予見することはできなかったと判断されました。

2.いじめを「具体的に認識」できたとはいえない(発見義務違反の否定)

12月後半、生徒は生活ノートに3日連続で「寒いです。」とだけ記載しており、これは何らかの悩みを抱えている疑いを抱かせる事情ではありました。

しかし、その一方で、以下のようないじめの存在を否定するかのような言動もありました。

  • 11月中旬のアンケートでは、「友達ができてきて、部活も始めたから」という理由で、学校生活は「どちらかといえば楽しい」と回答し、嫌がらせ等も「受けたことも、見たこともない」と回答していました。
  • 12月中旬(いじめ発生時期の直後)に行われた母親同席の三者面談でも、教員からの「不安なことや気になっていることはないか」という問いに「特にない」と答えていました。 このような事情から、教員が12月当時、本件いじめが実際に起きていることを具体的に認識することはできなかったと判断されました。

3.「学校の体制不足」は直ちに法的責任には結びつかない

原告(遺族)は、「過去のいじめ自死事案の報告書が活かされていない」「情報共有がされていない」など、学校のいじめ防止体制に問題があったとも主張しました。

これについて裁判所は、本件学校のいじめを予防・発見するための体制には改善の必要があった(形骸化していた)と、学校側の体制の不備自体は認めました。

しかし、仮に遺族が主張するような完璧な体制が準備されていたとしても、それによって直ちに今回の本件いじめを予見・発見できたとは認め難いとして、体制の不備を理由とした損害賠償責任も否定しました。

原告らを殊更に傷つける本件学校の対応の違法性

校長の発言等:

 事故直後の校長の発言(生徒が自らの不注意で転落したかのような発言)について、遺族に対する配慮を欠いたものであることは否定できないとされました。

しかし、詳細な事実関係が明らかでない事故直後の段階であったことなどから、そのことをもって直ちに国家賠償法上の違法性があるとまではいえないと判断されました。