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誹謗中傷の証拠とされたスクリーンショットがねつ造の可能性を否定しきれないとされた裁判例

2026年5月2日

弁護士 松田直弘

SNS上での誹謗中傷の証拠として提出されたスクリーンショットが、ねつ造された可能性を否定できないとされた裁判例(大阪地裁判決令和6年8月30日)を紹介します。

動画による解説はこちら

事案の概要

事案の概要

 本件は、インターネット上の投稿をめぐる「第一事件」と、その訴訟提起自体が不法行為にあたるかを争う「第二事件」から構成されています。

第一事件

原告Aが、死亡した子(D)のツイートに対して、被告Bらがその死を揶揄するような返信(本件返信)を投稿したことにより、Aの亡き子に対する敬愛追慕の情が侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

Aは本件返信の「スクリーンショット画像(本件画像)」を入手し、代理人弁護士Cを通じて発信者情報開示請求を行い、Bらを特定して提訴しました。

 

第二事件

これに対し被告Bらが、本件画像は捏造されたものであり、自分たちが本件返信をした事実はないとして、Aおよび代理人弁護士Cによる発信者情報開示請求や第一事件の訴え提起は違法な行為(不当訴訟)であると主張し、AとCに対して不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

争点

1.第一事件の争点

被告Bらが本件返信を投稿したか(本件画像が捏造か否か)、および原告Aの損害。

 

2.第二事件の争点

原告Aおよび代理人弁護士Cによる、第一事件の訴えの提起等(発信者情報開示請求を含む)の違法性の有無、および被告Bらの損害。

「敬愛追慕の情」とは

「敬愛追慕の情(けいあいついぼのじょう)」とは、遺族が亡くなった人に対して抱く、愛情や敬意をもって故人をしのび、悼む感情のことです。

この死者に対する遺族の敬愛追慕の情は、「一種の人格的法益」として法的に保護され得るとされています。

つまり、第三者がこの遺族の感情を不当に傷つけるような行為をした場合、不法行為(権利の侵害)が成立し得るということです。

ねつ造された可能性を否定できないとされた理由

1.本来あるはずの表示がない

通常の返信投稿(リプライ)の画面であれば表示されるはずの「返信先」や「投稿日時」の表示が、本件画像にはありませんでした。

2.加工(トリミング)の痕跡が疑われる外観

画像の外観に照らすと、実際の返信投稿をそのままスクリーンショットしたものではなく、ツイートに添付された画像を表示させた画面をスクリーンショットしたものと認められました

このことから、切り抜き(トリミング)などの加工が施されている可能性が高いと判断されています。

3.出所が不明であり、実際の投稿が確認できない

原告側に提供された本件画像がどこから得られたものか出所が不明であり、依頼を受けた代理人弁護士が検索等を行っても、該当のアカウント上で実際の返信投稿(本件返信)の存在を確認できませんでした

4.画像元のアカウントに対する「捏造」の指摘

亡くなった長女の死の翌日に本件画像を添付してツイートしたアカウントに対して、インターネット上で「捏造した画像を投稿している」との指摘がなされていました。さらに、本件画像自体についても、同アカウントの利用者による捏造であるというツイートが存在していることが認められました。

裁判所は、これらの事情を総合的に考慮した結果、本件画像は捏造されたものである可能性を否定できないと結論づけました。

第一事件についての裁判所の判断

第一事件(Bらが投稿したか)について 

証拠として提出された「本件画像」は、捏造されたものである可能性を否定できないと判断され、そのため、画像をもってBらが投稿したとは認められず、他に的確な証拠もないとして原告Aの請求は退けられました。

第二事件

訴えが違法になる場合

過去の最高裁判例により、訴えの提起が違法となるのは、主張した権利が事実的・法律的根拠を欠くものであり、提訴者がそのことを知りながら、又は通常人であれば容易に知り得たのにあえて提訴したなど、著しく相当性を欠く場合に限られる、とされています。

第二事件についての裁判所の判断

第二事件(提訴等の違法性)について

 Aおよび弁護士Cが「Bらが誹謗中傷を行っていない」と知りながら提訴したとは認められませんでした。

また、本件画像は一見して明らかに捏造とわかるものではなく、捏造を指摘するネット上の情報も信頼性が明らかでないことなどから、通常人であれば本件画像が捏造でありBらが無実であることを容易に知り得たとまでは認められないと判断されました。

したがって、第一事件の提訴やこれに先立つ発信者情報開示請求は違法な行為とはいえず、被告Bらの請求も退けられました。