転落防止用のベッドガードにつき,指示・警告上の欠陥があるとして,製造物責任法上の損害賠償責任を負うとされた事例
2026年5月7日
弁護士 松田直弘
転落防止用のベッドガードにつき,指示・警告上の欠陥があるとして,製造物責任法上の損害賠償責任を負うとされた事例(東京地裁判決令和6年3月22日、(控訴審)東京高裁判決令和6年11月27日)を紹介します。
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事案の概要
本件は、生後9か月の乳児が就寝中、転落防止用のベッドガード(本件ベッドガード)とベッドマットの間に体幹を挟まれる事故(本件事故)により窒息死した事案です。
乳児の両親(原告ら)は、本件ベッドガードを輸入販売していた業者(被告)に対し、製品に設計上および指示・警告上の欠陥(製造物責任法2条2項)があったと主張して、同法3条に基づき損害賠償を求めました。
争点
本件の主な争点は、以下のとおりです。
- 設計上の欠陥の有無: メッシュのたわみやがたつきにより、容易に隙間が生じる構造であったか。
- 指示・警告上の欠陥の有無: 使用対象年齢(18か月以上)や、対象未満の乳幼児に使用した場合の具体的危険性(窒息死など)について、適切な表示がなされていたか。
- 因果関係の有無: 製品の欠陥と乳児の死亡との間に相当因果関係が認められるか。
- 過失相殺の可否および割合: 両親側の設置・使用方法に落ち度があったか。
設計上の欠陥の有無
本件において、本件ベッドガードの設計上の欠陥は否定されました。
1.公的・国際的な安全基準への適合
裁判所は、本件ベッドガードが以下の安全基準を満たしていると認定しました。
- BS規格(英国規格): 子供が隙間に挟まって窒息死する危険を防ぐための「隙間に関する基準(40mm以下)」に適合していると認められました。
- SG基準(日本の製品安全基準): 「ベッドへの取付け性(130Nの力を加えても移動しないこと)」に関する安全性品質の基準にも適合していると判断されました。
2.実験結果の評価と信頼性
設計上の欠陥を主張した一審原告(両親)側と、否定した一審被告(業者)側の双方が実施した実験に対し、裁判所は以下のように判断しました。
- 原告側の実験(不採用): ベッドガードの脚部の一部が試験表面からはみ出していたり、ベッドマットを固定していなかったりするなど、BS規格が定める一律の試験条件に即していなかったため、その測定結果は採用されませんでした。また、BS規格ではメッシュ素材のたわみを含めて隙間を測定することは求められていないとされました。
- 被告側の実験(採用): BS規格の試験条件に即して適切に実施されており、その結果、隙間が40mmを上回ることはなかったため、基準適合の根拠として認められました。
指示・警告上の欠陥の有無
1.製品本体への警告表示の欠如
裁判所は、ベッドガードが「乳幼児の窒息死」という重大な危険を潜在的に有している以上、使用者が容易に認識できる製品本体に、使用対象年齢や危険性を表示すべきであると判断しました。
本件製品では、対象年齢(18か月以上)が取扱説明書や外箱(カートンボックス)には記載されていましたが、製品本体には一切の警告表示や注意書きがなかったことが重大な欠陥とされました。
2.具体的危険性の不十分な指摘
取扱説明書に添付された警告文書には「マットレスとの隙間で思わぬ事故が発生するおそれがある」との記載はありましたが、裁判所は以下の点を指摘し、警告として不十分であるとしました。
- 「思わぬ事故」という表現では、「乳幼児の窒息死」という具体的かつ致命的な危険を想起させるには不十分である。
- 対象年齢未満の乳幼児に使用した場合の具体的危険性(自力で脱出できず窒息するリスク)が明示されていない。
3. 流通形態や使用実態への配慮不足
ベッドガードは一度設置されると長期間使用されるだけでなく、インターネットオークションなどを通じて中古品として転々流通(再販)されることが当然に想定される製品です。
そのため、外箱が処分されたり取扱説明書が紛失したりしても、後の使用者が確実に危険を認識できるよう、本体への恒久的な表示が不可欠であると判断されました。
4.公的・国際的安全基準の重視
裁判所は、設計上の欠陥判断でも用いられた「BS規格」や「SG基準」における表示規定を重視しました。
- BS規格: 製品本体に「18か月未満の子供には使用できない」旨を恒久的に表示することを求めており、文字の大きさまで指定している。
- SG基準: 製品本体に「使用年齢範囲」や「18か月未満には適さない旨」を、容易に消えない方法で表示することを義務付けている。
本件製品は、これらの基準が重視する「本体表示」を欠いており、使用者が通常の注意を払っても具体的な危険性を把握して使用を中止する機会を奪っていたことから、「通常有すべき安全性」を欠く欠陥があると認定されました。
過失相殺について
第一審では両親側に3割の過失があったと評価され、控訴審ではこれが5割に引き上げられました。
1.取扱説明書に従わない不適切な設置
両親は本件ベッドガードを設置する際、取扱説明書を確認せず、本来の「サンドイッチ構造」による固定を行いませんでした。
- 本来の設置方法: 取扱説明書では、ベッドガード本体と反対側のプレートでベッドマットを両サイドから締め付けることで、隙間が生じないよう強く固定するよう指示されていました。
- 実際の設置方法: 両親はプレートを2つのベッドの土台(フレーム)に挟み込んで引っ掛けるだけの方法を採りました。
- その結果: プレートの最終的な固定状況を確認できず、固定の度合いが感覚的なものになりました。その結果、事故直後にはベッドガードとベッドマットの間に最大約10cmもの隙間が生じる状態となっており、これが事故の一因となったことは明らかであり「大きな落ち度」であると評価されました。
2.設置後の取扱説明書の閲読・確認不足
両親は、設置後に取扱説明書を発見したにもかかわらず、その内容を閲読しませんでした。
- 無視された警告: 取扱説明書の冒頭には「使用する前に必ず説明書をお読み下さい」と記載され、さらに「生後18ヶ月から5歳くらいまでのお子様に使用して下さい」「絶対に乳幼児用として使用しないで下さい」といった警告が明記されていました。
- 回避の可能性: もし取扱説明書を慎重に読んでいれば、生後9か月であった乳児が対象年齢外であることを認識し、使用を回避していた可能性が高いと判断されました。この「閲読しなかったこと」も「重大な落ち度」であるとされました。
まとめ
裁判所は、製品本体への警告表示がないという「指示・警告上の欠陥」は認めつつも、上記のような両親側の不適切な設置と対象年齢外での使用という落ち度を総合的に評価し、「公平の見地」から損害額の5割を減額するのが相当であると結論付けました。