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取適法(旧下請法)上の「買いたたき」を理由に損害賠償を求めた裁判例

2026年5月11日

弁護士 松田直弘

取適法(旧下請法)上の「買いたたき」、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」が不法行為に当たるとして損害賠償を求めた裁判例(東京地裁判決令和6年2月15日)を紹介します。

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事案の概要

本件は、精密機械器具の製作等を行う原告(有限会社、資本金300万円)が、設備工事や制御盤製作を行う被告(株式会社、資本金4億8000万円)から、液晶パネル製造装置や部品等の製作を請け負った事案です。

原告は、複数の案件を完成させて引き渡したにもかかわらず、被告が製作原価すら下回る著しく低い対価しか支払わなかったと主張しました。これに基づき、原告は以下を請求しました。

 

主位的請求

下請法上の「買いたたき」および独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に基づく不法行為による損害賠償請求。

 

予備的請求

請負契約(または商法512条)に基づく、相当報酬額から既払金を控除した残額の支払請求。

争点

本件の主な争点は、以下のとおりです。

  • 下請法上の「買いたたき」を理由とする不法行為が成立するか
  • 独占禁止法上の「優越的地位の濫用」を理由とする不法行為が成立するか
  • 請負契約等に基づき、相当報酬の不足分を請求できるか

下請法上の「買いたたき」を理由とする不法行為が成立するか

下請法は取締法規にすぎず、違反が直ちに私法上の不法行為になるわけではありません

不法行為を構成する「買いたたき」に該当するためには、以下の要件を満たす必要があると判断されています。

1.受け取るべき対価の算定:

下請事業者における「適正な原価」と、それに対する「一定の利益率」を勘案して、下請事業者の受け取るべき対価を措定(設定)すること。

 

2.支払金額との著しい乖離:

算定された「受け取るべき対価」と、親事業者の「実際の支払金額」との間に著しい乖離があると評価できること。

 

3.乖離が正当化されないこと:

両者間の協議状況等といった他の要素を考慮しても、上記の著しい乖離が正当化されないと判断されること。

本件においては、裁判所が算定した「受け取るべき対価」に対して実際の支払額が約95.4%に達しており、「著しい乖離」があるとはいえず、支払金額が適正な原価を下回っている事情もないとして、買いたたきによる不法行為の成立は否定されました。

「優越的地位の濫用」を理由とする不法行為が成立するか

優越的地位の濫用として原告が主張する事実(行為)そのものが認められなかったため、その前提となる「優越的地位の有無」やその他の要件を検討するまでもなく、不法行為の成立は否定されています。

請負契約に基づく報酬請求

本件では、契約締結時に具体的な報酬額の合意がなかったため、「相当な報酬額」を支払う旨の合意があったと解されました。

裁判所は、原告が支出した原価の90%を「適正な原価」とし、これに10%の利益を上乗せした額を「相当報酬額」と認定しました。

この相当報酬額から既払金を差し引いた不足額(3164万1470円)について、報酬請求権が認められました。