祖父母と養子縁組した事が事情の変更に当たるとして、既存の養育費支払いの調停条項が取り消された事例
2026年7月9日
弁護士 松田直弘
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事案の概要
元夫(申立人・抗告人)と元妻(相手方)は調停離婚に際し、元夫が元妻に対し、未成年の子の養育費として月額15万円を支払う旨の合意をしていました。
その後、元夫は、
①未成年者が元妻の両親(母方祖父母)と養子縁組をしたこと、
②元夫の転職による収入減少と元妻の収入増加、
③元夫の再婚と無収入の再婚相手の扶養、
という事情の変更が生じたとして、養育費の減額(または支払の定めの取消し)を求めて審判を申し立てました。
原審で申立てが却下されたため、元夫が即時抗告したという事案です。
争点
本件の最大の争点は、「未成年の子が母方祖父母と養子縁組をしたこと」が、養育費の額に影響を及ぼすべき「事情の変更」に当たるか(実親である元夫の扶養義務が免除・減額されるか)という点です。
結論
- 原審(千葉家庭裁判所):元夫の申立てを却下(養育費の減額を認めず)。
- 抗告審(東京高等裁判所):原審の決定を取り消し。調停条項に基づく養育費の支払いのうち、調停申立時である令和3年11月以降の支払いの定めを取り消す(元夫の養育費支払義務を免除)。
原審(千葉家裁)の判断
- 一般的に「子が養子縁組をした場合には養親が第一次的扶養義務者になる」と言われるのは、親権者が再婚し、その再婚相手と養子縁組した場合を想定した解釈であると指摘しました。
- 本件の養親である祖父母は満82歳と満78歳(当時)であり、生産年齢(15歳以上64歳以下)を大きく外れ、当面就労を継続できる蓋然性があるとは言いがたいことから、元夫が第一次的扶養義務を免れたとはいえないと判断しました。
- また、元夫の収入減少や再婚相手の扶養といった事情を考慮して算定しても、合意されていた月額15万円の約93.3%にとどまるため、養育費を変更すべき事情の変更には当たらないとしました。
抗告審(東京高裁)の判断
1. 養子縁組による扶養義務の順位の変動
高裁は、一般に未成年者との養子縁組には「子の養育を全面的に引き受ける意思」が含まれていると指摘しました。
そのため、未成年者に対する扶養義務の原則として、第一次的には養親(本件では母方祖父母)が負い、非親権者である実親(元夫)は、養親が無資力等の理由で十分に扶養義務を履行できないときに限り、次順位で扶養義務を負うと解釈しました。
2. 祖父母との養子縁組の法的評価(元妻の反論への回答)
元妻側は、「親権者が再婚し、その再婚相手と養子縁組をする場合と異なり、祖父母が養親となる場合は実親の存在を排除していないため、祖父母が扶養義務を引き受けたとはいえない」と反論しました。
しかし高裁は、祖父母が未成年の孫と養子縁組をする場合であっても、未成年者は養父母の共同親権に服することになる以上、養父母が法的に未成年者の扶養義務を全面的に引き受ける意思を表示したとみるのが自然であると判断しました。
そのため、養父母が無資力等の理由で扶養義務を履行できない場合を除き、従前の非監護親である実父に対して、同順位での扶養義務の履行を求めるべき理由は見当たらないと退けました。
3. 養親(母方祖父母)の資力についての認定
元夫が次順位の扶養義務を負う例外的なケース(養親が無資力等で扶養義務を十分履行できない場合)に当たるかどうかも検討されました。
高裁は、母方祖父母が25年以上にわたり不動産の委託管理や駐車場経営を行う同族会社の役員を務めており、自宅敷地(評価額約6800万円)を共有し、会社名義でも宅地を所有している事実を認定しました。
さらに、高裁が元妻に対して母方祖父母の年収や資産の全体像が分かる資料の提出を求めたにもかかわらず、元妻から一切資料が提出されなかったことを重視しました。
これらの点から、養親である祖父母が、無資力等により十分に扶養義務を履行できないとは認められないと判断しました。
4. 信義則違反(元妻の主張)の排斥
元妻側は、「元夫の不貞行為によって別居を余儀なくされたことや、元妻自身に不慮の事故があった場合に備えて祖父母に面倒を見てもらうために養子縁組がされたという経緯からすれば、元夫が養子縁組を理由に扶養義務を免れたと主張することは信義則に反する」とも主張しました。
しかし高裁は、養子縁組をした趣旨や動機によって、未成年者に対して第一次的に扶養義務を負う者が変わるというのは相当ではないとし、元夫の主張が信義則に反するということはできないと結論づけました。
結論
以上の理由を総合し、高裁は「養子縁組により元夫が第一次的な扶養義務者ではなくなった」という事情の変更が生じたと認め、元夫の養育費支払いの定めを取り消すのが相当であると判断しました。