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キャラクターの著作権の判断についての事例

2026年6月8日

弁護士 松田直弘

キャラクターの抽象的な設定は著作物ではないとした地裁に対して、テレビドラマ版の視覚的特徴には創作性があると判断した高裁の裁判例(東京地裁判決令和5年12月7日判決、(控訴審)知財高裁令和7年9月24日判決)を紹介します。

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事案の概要

  1. 故笹沢左保氏(亡B)が執筆した小説「木枯し紋次郎」シリーズの主人公「紋次郎」に関して、食品製造販売会社である被告(控訴審では被控訴人)が、自社商品(「紋次郎いか」等)のパッケージや外袋に特定の図柄(被告図柄)と「紋次郎」の名称を付して製造・販売し、自社ウェブサイトにその画像を掲載したという事案です。

  2. 亡Bの著作権を相続した亡Aの訴訟承継人ら及び、著作物の独占的利用許諾を受けた原告(控訴人)会社は、被告の行為が小説・漫画・テレビドラマ・映画に係る著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権、譲渡権)の侵害に当たり、また不正競争防止法上の不正競争行為に該当すると主張しました。

  3. これに基づき、被告商品の製造販売等の差止め、廃棄、および損害賠償を求めました。

争点

本件の主たる争点は、以下の通りです。

1.著作権侵害の有無

被告図柄が、「木枯し紋次郎」の表現の複製又は翻案に当たるか

2.不正競争該当性の有無

原告らの商品等表示への該当性、類似性、混同惹起の有無

3.損害額の算定

4.亡B等の許諾の有無、権利濫用や権利失効の原則の適用の有無、消滅時効の成否

控訴審での追加争点

結論

第1審(東京地裁)

原告らの請求をいずれも棄却しました。

 

控訴審(知財高裁)

著作権(翻案権、公衆送信権)の侵害を認め、被告図柄を使用した商品の製造や画像公衆送信の差止めを命じるとともに、損害賠償の支払いを命じました。

著作権侵害の成否について

1.対象となる「著作物」の特定方法の違い

地裁の判断

原告らは、侵害された著作物を「①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人」という文章の記述(キャラクターとしての抽象的概念)にとどめ、個別の画像等を特定しませんでした。地裁は過去の最高裁判例(ポパイ事件)に基づき、キャラクターという抽象的概念自体は著作物ではないとし、具体的な文章表現等を特定していない原告の主張は失当であると判断しました。

 

高裁の判断

これに対し高裁では、原告が本件テレビ作品の第1話「川留めの水は濁った」の一場面の画像を具体的に特定しました。これにより、抽象的なキャラクターではなく、この具体的な画像(二次的著作物)と被告図柄とを客観的に対比することが可能となり、翻案の成否を具体的に検討できることになりました。

2. 表現の「創作性」の評価の違い

地裁の判断

原告が主張する①〜④の特徴(三度笠、道中合羽、竹の楊枝、長脇差)について、地裁は、それらが「江戸時代の渡世人の姿としてありふれた事実」であり、アイデアにすぎず、著作権法で保護される創作的表現には当たらないと判断しました。

 

高裁の判断

一方高裁は、個々の要素が一般的な渡世人の姿であったとしても、これら①〜④の特徴(通常より大きい三度笠や通常より長い道中合羽など)を全て兼ね備えた人物はテレビ放映前には存在しておらず、具体的な描写全体として創作的表現であり、表現上の本質的な特徴をなすと認定しました。

3.被告図柄から本質的特徴を直接「感得」できるかの評価の違い

地裁の判断

地裁は、被告図柄に描かれた人物の三度笠が背丈ほどもある巨大なものであり、口にくわえるものも顔の数倍の大きさで直ちに竹串と認識できないことなどから、被告図柄からは「江戸時代の渡世人を直接感得することはできない」として、同一性を否定しました。

 

高裁の判断

高裁は、被告図柄の巨大な三度笠や地べたに引きずるほど長い道中合羽について、これらは原作の画像が持つ「大きい」「長い」という本質的特徴を被控訴人図柄において強調・誇張して表現したことによるものであると評価しました。誇張されているからといって特徴の感得を妨げるものではなく、むしろ容易にしているとし、表現の本質的な特徴を直接感得できるため「翻案」に当たると判断しました。

これらの違いにより、地裁は著作権侵害を全面的に否定したのに対し、高裁はテレビ作品の画像に対する翻案権および公衆送信権の侵害を認める結論に至りました。

不正競争防止法に基づく請求について

原告(控訴人)らが主張した「紋次郎」のキャラクター像や名称が、同法で保護対象となる「商品等表示(特定の事業者の商品や営業を示す識別マークや名称)」に該当しないと判断されたため、地裁・高裁の双方で成立が否定されました。