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SNS上の投稿が名誉毀損および著作権侵害にあたるとして、投稿の削除を命じた事例における氏名表示権の扱いについて

2026年9月3日

弁護士 松田直弘

SNS上の投稿が名誉毀損および著作権侵害にあたるとして、投稿の削除を求めた事例において、名誉毀損が認められると共に、著作権法上の氏名表示権に関して、たとえ元の画像に名前が記されていなくても、著作者が明らかな場合はその氏名を表示する義務があると判断した事例(東京地裁令和7年8月21日判決)を紹介します。

動画による解説はこちらから

事案の概要

本件は、日本国内に居住する男性である原告が、インターネット上のソーシャルメディアである「X(旧Twitter)」を管理運営する米国法人(被告)に対し、X上に投稿された合計4件の投稿記事(以下「本件投稿記事1〜4」)の削除を求めた裁判です。

本件投稿記事1〜3について:

原告の名誉権を侵害していると主張し、名誉権に基づく差止請求権として削除を求めました。

 

本件投稿記事4について:

原告自身が撮影してコメントを付し、自身のInstagramアカウントに投稿した写真(原告作成画像1・2)を無断転載されたと主張し、原告が保有する著作権(複製権・公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害に基づく差止請求権として削除を求めました。

争点

本件の主な争点は、以下の2点に整理されます。

  1. 争点1:本件投稿記事1から3までによる名誉権侵害の有無
    • 投稿内容(原告がカルト宗教Biの信者であり、未成年の頃から不適切な性交渉や中絶への関与、女性への脅迫などの重大なトラブルを起こしていた旨の記述)が原告の社会的評価を低下させるか、またそれらは真実か。
  2. 争点2:本件投稿記事4による著作権及び著作者人格権侵害の有無
    • 原告がInstagramに公開した、コメント付きの自撮り写真に著作物性が認められるか。
    • Xの投稿において、当該画像を無断で転載した行為が複製権および公衆送信権を侵害するか(適法な「引用」として認められるか)。
    • 原告の氏名を表示しなかった行為が氏名表示権(著作権法19条2項等)の侵害となるか(原告が元の画像に自身の氏名を表示していたことを立証していない場合でも、氏名表示権侵害が成立するか)。

結論

裁判所は、原告の請求を全面的に認めました。

争点1:本件投稿記事1から3までによる名誉権侵害の有無

本件で問題となった投稿記事1〜3は、原告の実名を記載した上で、以下のような事実を書き込んだものでした。

本件投稿記事1

原告がカルト宗教である「Bi」の信者であり、中学校3年生の頃から自身をBiに導いた人物(以下「導き親」)と性交渉を行い、導き親に堕胎(人工妊娠中絶)されたことを追及していた、という事実。

 

本件投稿記事2・3

原告が「Bi」の信者であり、中学生の頃から導き親と性交渉を行い、さらにその導き親を脅迫していた、という事実。

1.裁判所の判断

裁判所は、名誉権侵害の成立を全面的に認めました。

社会的評価の低下の認定

裁判所は、「記事が他人の社会的評価を低下させるか否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである」という原則を示しました。

この基準に照らし、投稿記事1〜3は読者に対して「原告が品性や徳行等を欠く人物である」という印象を与えることが明らかであり、原告の社会的評価を明らかに低下させると認定しました。

摘示事実の非真実性

裁判所は、原告がBiの信者ではないこと、中学生の時に性行為に及んだ事実はないこと、女性を妊娠・中絶させた事実や脅迫した事実もないことを証拠(原告の陳述書等)に基づき認定し、投稿された内容は真実ではないと判断しました。

被告側からは、投稿内容が真実であるという立証はなされませんでした。

2.立証責任に関する判断

原告と被告のどちらが真実・非真実の立証責任を負うのか。

被告(X側)は、「原告が『真実ではないこと』を明白に立証しなければ削除は認められない」と主張し、昭和56年の最高裁大法院判決(名誉毀損による表現行為の事前差止めにおいて、被害者が非真実性を立証すべきとした判例)を根拠に挙げました。

裁判所は、被告が引用した最高裁判決の説示は「公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関する場合」についてのものであり、「私人の投稿が問題となる本件(一般の民事紛争)には適切ではない(適用されない)」と判示しました。

したがって、立証責任に関する被告の主張は採用されず、被告側が真実性の立証を行う必要があると判断しました。

争点2:本件投稿記事4による著作権及び著作者人格権侵害の有無

1.自撮り写真の「著作物性」の認定

裁判所は、これらの写真について、原告が自身の表情、顔の向き、カメラの角度、背景や照明等の映り込み具合を意図的に選択して構図を決定し、自ら撮影したものであると指摘しました。

さらに、自身の表情を細部まで表現できるように構図などを工夫している点において創作性が認められるとし、著作物として保護されるべき相当性(著作物性)を肯定しました。

2.「複製権・公衆送信権侵害」と「引用の抗弁」

被告(X側)は、投稿内で原告の髪の長さを比較・検証する目的で写真を使用していたため、著作権法32条1項の適法な「引用」に当たり、無断転載ではないと主張しました。

しかし、裁判所は以下の理由から適法な引用とは認めず、複製権・公衆送信権の侵害を認めました。

  • 主従関係の欠如(写真がメインになっている): 問題の投稿記事4では写真が大きく映し出されている一方で、投稿者が添えたコメントは写真に付随するごく短いものにすぎませんでした。
  • 必要性を超えた利用態様: 検証のためであれば髪の毛の部分だけで足りるはずですが、実際には顔全体や背景を含む写真のほぼ全体が転載されていました。そのため、この画像が独立して二次利用される恐れも否定できないとされました。
  • 出所の表示の欠如: 投稿において、写真が原告のInstagramアカウントから転載されたものであるという「出所の表示」が一切ありませんでした。

結論

これらを総合考慮し、社会通念に照らして「公正な慣行に合致するものではなく、引用の目的上正当な範囲内とも認められない」として、適法な引用を否定しました。

3.「氏名表示権(著作者人格権)侵害」の成立

著作権法は、氏名表示権について、次のとおり定めています。

(氏名表示権)
第19条

1 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。


2 著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示することができる。

 

3 著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

 

4 略

被告(X側)は、「原告自身がInstagramに写真を公開する際、写真の中に自分の名前を表示していなかった(無名の著作物である)

氏名が表示されていない以上、転載時に氏名を表示しなかったとしても氏名表示権侵害にはならない」と主張しました。

これに対し、裁判所は、

 

「著作物を利用する者は、その著作者がこれを無名とする権利を行使したとは認められない場合において、その著作者名が明らかであるときは、著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益の重要性に鑑み、その著作者名を表示しなければならない」

 

との規範を示し、次のように結論付けました。

無名にする意図の否定

写真は原告自身が自撮りしたものであり、自身のInstagramアカウントに投稿されていたという性質を踏まえると、原告が写真をあえて「無名(作者不明)のまま流通させよう」とする意図があったとは明らかに認められない。

 

著作者名が明らかであること(自明性)

原告のInstagramアカウントに投稿された原告本人の自撮り写真であるため、特別な調査をしなくても、この写真の著作者が原告であることは自明である。

 

結論

したがって、著作者名が原告であることが明らかであるにもかかわらず、氏名を表示せずに無断で利用した被告の行為は、原告の氏名表示権を侵害すると認定されました。